"「月5万払うから」離婚した私に介護を頼む元夫" 第1話
インターホンのモニターに映っていたのは、両に巨なキャリーケースを握りしめ、歪んだ笑みを浮かべる元義母の顔だった。
「美さん、けなさいよ。今からここにむから」
受話器のスピーカー越しに響いたその掠れた声を聞いた瞬、喉の奥がカラカラに渇き、臓が胃の底まで嫌な音をてて落ちていくのをじた。
……は?
婚届を提してから、まだしか経っていない。
指先が微かに震えるのを抑えながら、私は画面のの老を凝した。歳になる佐伯千代子。入れのき届いたパーマヘアに、見覚えのある藤のカーディガン。元には、息子である健が昔の社員旅で使っていた、傷だらけの黒い型スーツケースがつ、儀悪く並べられている。
冗談じゃない。悪なら、今すぐ覚めてほしい。
たった、庭裁判所の調をた廊で、このは私の目ので勝ち誇ったようにを鳴らしたばかりだった。
「やっと終わったわね。これで健も、肩の荷がりて楽になるわ」
隣につ元夫・健は、気まずそうに線を泳がせるだけで、母親の無礼な言葉を度も制止しなかった。。子どもに恵まれなかったこと、方信用庫のフルタイム勤務で帰宅が遅くなること、健の昇が同期より遅れていること——そのすべての原因を私のせいにし、事あるごとに「嫁の務め」
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という言葉で縛り付けてきたたち。
「そうですね」
あの、私はを押し殺して、ただそれだけを答えた。争うエネルギーすら惜しかった。、毎朝半に起きて義母の血圧帳をつけ、に度の通院にを充て、週末になれば義母の旧居の掃除と買いしに追われる活。それがようやく法に断ち切られたのだと、胸の奥で静かに息を吐きしたはずだった。
結婚に自分の貯とローンで買い、に貸ししていた築のさな1LDK。賃貸契約の満と婚のタイミングがなり、ようやく取り戻した私の。段ボールのに囲まれながら、昨晩ようやく「の朝は、誰の薬も用しなくていいんだ」と涙をこぼしたばかりだったのに。
ピーン、ポーン。
苛ちを隠そうともしない、乱暴なインターホンの連続音。
「ちょっと、美さん! いるんでしょ! 部のかりがついてるのはから見えてるのよ! くけなさい!」
廊に、甲い鳴り声が反響する。ここは閑静な宅の単者向けマンションだ。平の夕暮れ、このけたたましい騒音はすぐに隣ののに届いてしまう。
私は奥歯を噛み締め、玄関へと向かった。ドアをけるに、属製のドアガード(U字ロック)をしっかりと掛ける。チェーン越しに、わずかセンチだけ扉の隙をけた。
「何の用ですか」
え切った隙とともに、義母の化粧品の匂いが腔を突いた。
「何の用って、見ればわかるでしょうが! くけなさいよ、い荷物持ってここまで来るの変だったんだから!」
義母はドアガードが掛かっているのを見るや否や、信じられないものを見るような目で私を睨みつけた。その隙に、キャリーケースの輪を無理やりねじ込もうとしてくる。
「入れません。お引き取りください。私と健さんは婚しました。お義母さん、あなたはもうです」
「って何よ! も族だったのに、そんなたいこと言うもんじゃないわよ! 健がね、あの玲奈さんと緒にしいマンションへ引っ越すことになったの!」
誇らしげに、しかしどこか焦りを滲ませた調で義母がまくしたてた。
「あの子たちはこれから婚活なんだから、私が邪魔しちゃ悪いでしょ? だから私がを引いてあげたのよ。美さんは子どももいないし、で寂しいでしょう? 部も余ってるんだから、今まで通り私の面倒を見なさいよ。の面倒を見てくれたら、私のからしはお遣いあげてもいいんだから」
考が真っになった。あまりの理尽さに、りを通り越して背筋がたくなっていく。
を引いた?で寂しい?面倒を見ろ……?
「……お待ちください。健さんは、あなたがここに来ることをっているんですか?」