みかん小説
本棚

"亡き娘の純金バングルを、義母は義妹の再婚費用にしようとした" 第5話

「んだが宝持って国にけるわけないでしょ! きている由梨ちゃんの未来のために使ってあげる方が、その……美咲さんにとっても供養になるじゃないの!」

「……供養?」

私は拳を握りしめた。爪がのひらの肉にくい込み、痛みがる。供養。この女は今、の娘の遺品を盗んで売りばす為を、『供養』と言ったのか。

「健太」にへたり込んでいた奈緒が、掠れた声で夫の名を呼んだ。

奈緒はにをつき、ふらふらとちがった。幽霊のように気のない顔で、夫をまっすぐに見つめている。

「あんた……ってたの?」

健太は線を泳がせ、首筋を掻いた。

「いや……ってたっていうか……母さんが、どうしても由梨に見栄を張らせてやりたいって言うからさ……。美咲姐さんの物は、ほら、奈緒が持ってても着ける会なんてないだろ? だったら、しでも役にった方が……」

「あんたが……渡したの?」

「渡したっていうか、預けただけだよ! 売ったは、ちゃんと由梨の式が終わったら、しずつ俺が奈緒に返すつもりだったんだって!」

「ふざけないでよッ!!」

奈緒が叫んだ。結婚して、義理の実に対して度も声を荒らげたことのなかった次女が、獣のように喉を引き裂いて叫んでいた。

「お姉ちゃんの歳の記だよ!? お母さんが汗垂らして働いて買ってくれた、お姉ちゃんの命そのものだよ!? なんでそれを、由梨ちゃんのドレス代なんかに消されなきゃいけないのよ!!」

広告

「奈緒、落ち着けよ! 母さんも悪気があったわけじゃ――」

健太が宥めようと奈緒の肩にを伸ばした瞬、奈緒はそのを猛烈な勢いで払いのけた。

パチン、と乾いた音がリビングに響く。

「触らないで!!」

健太が弾かれたように目を見張る。

「奈緒さん、何その態度は! 夫に向かって!」千恵子が騒ぎてる、私はテーブルのに置かれていた千恵子のハンドバッグに目を留めた。

乱暴に置かれたバッグのがき、から枚の類が覗いていた。

青いインクで印刷された、見覚えのあるチェーンのロゴ。駅にある貴属・ブランド品買取専の伝票だった。

私は千恵子の制止を無し、そのを鋭く引き抜いた。

「あっ! ちょっと、勝に何見るのよ!」

面に並ぶ印字を、目が追う。

品名:純製バングル(刻印あり・特注品)査定評価額:相騰につき、無垢量換算にて算。

そして、用の最部にある『取引状況』の欄。太い赤字のスタンプで、無慈な文字が刻印されていた。

【本査定完・売買契約予約済】【残支払・最終引渡:本 17:00】

計の針は、すでに午を回っていた。

あと。

千恵子のバッグから抜き取った伝票を握りしめる私の指先が、りで刻みに震えていた。

名:『ゴールド・リッチ 駅』品名:純製バングル(刻印あり・特注品)

面に印字された無質な黒い文字が、私の網膜を焼き焦がすようにチカチカと滅する。

美咲が歳の誕、照れくさそうに首にはめて、何度もにかざして微笑んでいたあの腕輪。「お母さん、私がおばあちゃんになっても、これだけはずっとつけてるからね」そう言って抱きついてきた女の温もりが、私の記憶ので鮮やかによみがえる。

それを、駅の暗い買い取りカウンターに放りし、の再婚のドレス代に換えようとしていた。

「返しなさいよ! のバッグから勝に何取ってんのよ!」

千恵子が血相を変えて突してきた。鳥の鉤爪のような指先が私の元へ伸びる。

「触らないで」

私はく、腹の底から声を絞りした。千恵子がビクッと肩をねさせ、伸ばしたを途半端に空で止める。

「な、何よ……」

「今すぐ、このに話します」

私はスマートフォンを操作し、伝票にかれた番号をタップした。スピーカーホンに切り替える。プルルル……という無質な呼びし音が、苦しいリビングに響き渡った。

「お、おい、お義母さん、待ってくれって!」健太が焦ったように駆け寄ってくる。「にそんな話したら、母さんのが――」

『お話ありがとうございます。ゴールド・リッチ駅でございます』

若い男性員のはつらつとした声が、健太の制止を容赦なく遮った。

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: