"亡き娘の純金バングルを、義母は義妹の再婚費用にしようとした" 第1話
速のサービスエリアで、助席の背もたれを倒した瞬、ふっと識が沈んだ。
助席の元には、朝番でから引き取ってきたいリンドウの束と、女の美咲が好きだったレモンの焼き菓子。
今は、美咲の回忌の命だった。
あの子が突然の交通事故で逝ってしまってから、もう。歳になった私のは、あのから半分止まったままだった。
けれど、昨夜の次女・奈緒の話が、胸の奥でずっと鉛のようにく沈んでいた。
『お母さん、は……私、緒にけそうにないの』
受話器の向こうの奈緒の声は、掠れてさかった。理由を尋ねても、「ちょっとバタバタしてて」「仕事がて込んでて」と歯切れの悪い言葉を繰り返すばかり。
――嘘をついている。
母親なら、声のトーンひとつでわかる。奈緒は昔から、自分が窮にたされると、に迷惑をかけまいと気丈な声を作ろうとする癖があった。
シートに体を預けて目を閉じた途端、たいの音が元を掠めた。
どこまでも続く、見覚えのある古い実のい廊。その突き当たりに、美咲がっていた。
よく着ていた、成りのカーディガン姿のまま。ただ、その表はこれまでに見たことがないほど切迫し、青ざめていた。
「美咲……?」
わず名を呼んで駆け寄ろうとした。
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けれど美咲は、私を拒むように両を胸ので突きし、激しく首を横に振った。
『お母さん、私のところに来ないで!』
「え……? 何を言ってるの、美咲」
『いいからく! 私のところじゃない! 奈緒のところへって!』
美咲の爪先が、必にを蹴るようににた。血ったような瞳が、私の目を射抜く。
『奈緒が……奈緒が壊されちゃう! くって!!』
臓が肋骨を内側から殴りつけたような衝撃で、ね起きた。
ハンドルに額をぶつけそうになりながら、荒い息を吐きす。全にびっしりとや汗が吹きしていた。ダッシュボードの計を見る。目を閉じてから、わずか分しか経っていなかった。
「……?」
胸が異常な速さで脈打っている。喉の奥がカラカラに渇き、指先が微かに震えていた。
ただの疲労が見せた。そう片付けるには、美咲の叫び声があまりにも々しすぎた。
の片隅で、数に奈緒がぽつりと漏らした独り言が蘇る。
『お母さん。……私、お姉ちゃんの物、もう守りきれないかもしれない』
あのは、社宅から民のマンションへ引っ越したことで収納がりなくなったのかと、軽く受け流してしまっていた。
嫌な汗が背筋を伝い落ちる。震えるでスマートフォンを取りし、奈緒の番号をタップした。
呼びし音が虚しく鳴り続ける。回、回。切れてはかけ直し、度目も、応答はない。
「奈緒、お願いだからて……」
返事はない。私はシートベルトを引き戻し、エンジンをかけ直した。
カーナビの目設定を解除する。霊園の納骨堂ではなく、次女のむアパートへとを切り替えた。本線へ流するアクセルを踏み込むに、無識に力が入った。
美咲、お願いだから、何事も起きていないと言ってちょうだい。
祈るようないで、をらせた。
。奈緒たちが暮らす分譲マンションのに到着した瞬、私の界に台のいトラックがび込んできた。
体には、きく『用品・遺品理・張価買取』の文字。
荷台のあおりがかれ、作業を着た若い男性が、際よく段ボールを積み込んでいる最だった。
胸の奥が、ぎゅっと嫌な音をてて縮みがった。を来客用スペースに滑り込ませ、エンジンを切るのももどかしくドアをける。
作業員が今まさに荷台へ押し込もうとしていた型の段ボール箱。その側面に、黒い油性マジックでかれた文字が見えた。
丸みを帯びた、几帳面で、丁寧な跡。
『美咲・切なもの』
全の血が、気に元へ抜け落ちていく覚がした。
「……ちょっと、待ちなさい!」
自分でも驚くほど鋭い声がた。作業員の青が驚いてを止め、抱えていた箱を荷台の縁にろす。
「はい? なんですか?」
「それ……その箱、どこから運びしたんですか!」
「え? 階の302号ですが……依頼主の方から全部引き取りのサインをいただいてますけど」