"「本当の父親です」と乾杯した夫、148万円の請求書には知らん顔" 第6話
『藤沢精から連絡が来た。に説会を倒しだってさ。……お義父さんの脈、ようやく営業の役にったよ』
画面に浮かぶその文字を見つめているうちに、指先からじわじわと、氷のようなたさが広がっていった。
(……脈が、役にった?)
違う。父が積みげてきたものは、そんなっぽい『脈』などという言葉で切り売りできるものじゃない。
そして、あの夜の宴席。夫が『ただの寄り職たち』と見し、挨拶もそこそこに酒を注がせていた、あの朴素ななりの男たちの顔が、私の脳裏に次々と浮かんできた。
夫はまだ気づいていない。自分がを踏み入れようとしている所が、成功へのレッドカーペットではなく、自ら掘った底なしの落とし穴だということに。
午過ぎ。私が自席で部品の発注伝票をチェックしていたその、夫の健太郎が乗り込んだ藤沢精の会議は、すでに張り詰めた空気に支配されていたという。
から藤沢さんや、あのに同席していた取引先の方々から詳しく聞いた話だ。その景をい浮かべるだけで、胃の底がえ切るような錯覚を覚える。
夫は仕てたばかりのストライプのスーツにを包み、級ブランドの革靴を鳴らして会議のドアをけた。顔には、型商談を勝ち誇った営業部特の、あの自信に満ちた笑みを張り付けていたはずだ。
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「藤沢社! 本はお忙しい、説会の倒しをいただき誠にありがとうございます! が社が総力を挙げて作成した、コンソーシアム向け最作械の更提案でございます!」
夫はくをげ、胸ポケットから真しい名刺を取りした。だが、返ってきたのは歓迎の言葉ではなかった。
「……そこに座ってください、佐伯さん」
テーブルの正面に座る藤沢隆さんの声は、信じられないほどく、平坦だった。
藤沢精といえば、の自部品サプライチェーンにおいて、型と難削材加でにる者はいない堅企業だ。今回のプロジェクトは、刈や、に拠点を置く加メーカー社が共同で設備を刷する、総額数億円規模の事業。藤沢さんはその共同調達の取りまとめ役、いわば全権を握る選定委員だった。
夫は笑みを崩さないまま、促されるように子を引いた。そして、テーブルの両脇に並ぶ面々の顔を見た瞬、夫のきがピタリと止まった。
そこにいたのは、スーツを着た見らぬ役員たちだけではなかった。
ヨレのない作業着の襟元に社章をつけ、腕を組んで黙り込んでいる初老の男たち。先の古希祝いで、番端の丸テーブルに座っていたたちだった。
(……え?)
夫の喉仏が、さくねた。
古希祝いの夜。
夫は自分の母親や妹、取引先のゴルフ仲ばかりをもてなし、価な酒と料理を振るっていた。会の隅で静かにビールを酌み交わし、父とい話にを咲かせていたな職たちには、ろくに挨拶もせず、ビールを注ぎにもかなかった。
『油臭い寄り連が集まっても、何の得にもならんからな』あの夜、夫がので吐き捨てた言葉を、私は今でも忘れていない。
だが、目のに座っているのは誰か。
で精密鋳造を営む岡田専務。の研削加で国内トップシェアを誇る藤社。そして、自メーカーの調達部から技術顧問として招聘されている神技師。
全員、父が代の頃にで取り取り技術を叩き込んだ、かつての弟子たちだった。今やそれぞれの会社を率い、今回の設備更プロジェクトで『求仕様の策定』と『公差の最終検収基準』を取り仕切る、実務の最責任者たちだったのだ。
夫の額に、じわりとたい汗が滲みる。
「あ、岡田専務……藤社も。先は義父の古希祝いにわざわざお越しいただき、本当にありがとうございました。義父も変んでおりまして……」
夫は慌てて笑いを浮かべ、ペコペコとをげた。内面をして、親戚としてのさをアピールしようとしたのだ。
だが、岡田専務はピクリとも表を変えなかった。
く刻まれた眉の皺を寄せたまま、濁ったい声で遮った。