"「本当の父親です」と乾杯した夫、148万円の請求書には知らん顔" 第4話
非常階段のコンクリートの壁が、夫の荒い息遣いを反響させる。私はえ切った声で、事務に返した。
『おの親だろ。なんで俺が払うんだ?』
『……え?』
「昨の夜、あなたが私に言った言葉よ」
話の向こうが、完全に凍りついた。
「健太郎、自分の親のことは自分で責任を持つ。それがあなたの決めたしいがのルールでしょう? 私はそのルールを、字句違わずに実しているだけよ。お義母さんの旅代162万も、ゴルフのドライバー代も、これからはあなたの個な料から払ってちょうだい」
『お、おい……待てよ。夫婦だろ? なんでそんな細かいこと根に持って……!』
「細かいこと? 148万円を押し付けておいて、どのが『細かいこと』なんて言うの?」
『俺だってに余裕があるわけじゃないんだよ! 162万なんて今すぐ括でせるかよ!』
ついに本音がた。健太郎の料は決してくない。営業部としての当もている。だが、級のローンを抱え、見栄のための交際費を使い込み、元の流資産などほとんどないことを、私は誰よりもっていた。私の財布を『無制限の予備タンク』として使っていたからこそ、彼はで気よく振るえていただけなのだ。
「払えないなら、諦めたらどうかしら。の丈にわない旅はしない。それも常識よ」
『おい、真由美! 真由美ッ!!』
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通話を切ると、階段にはシンとした静けさが戻った。鳴り声の残響が消えるとともに、胸の奥を占めていたのは、驚くほどの『軽やかさ』だった。
なぜもっとく、こうしなかったのだろう。夫の顔をてることと、夫の寄を許すことは、全く別のことだったのに。
そのの夜、刈の自宅に帰宅すると、玄関には夫の革靴が乱暴に脱ぎ捨てられていた。リビングのドアをけると、部は暗く、夫がソファにく沈み込んでいた。
テーブルのには、つかずのコンビニ弁当と、かれたままのノートパソコン。画面には、夫名義の方の残照会ページが表示されていた。
夫は私が入ってきたことにも気づかないほど、を抱えて唸っていた。指の隙から覗く顔はで、眉にはい溝が刻まれている。
(ああ、卓を叩いたのね)
自分の座残から、のローンとカードローンの引き落としを引き、そこに162万円をぶつけたらどうなるか。これまで私が無言で引き受けてきた『義理の実への費』が、どれほどのみだったのか。初めて自分の肉を削る段階になって、ようやくその数字の暴力性に直面しているのだ。
私がキッチンに向かい、やかんにを注いでいると、夫のスマートフォンが鳴った。テーブルので激しくバイブレーションが震える。
画面には『妹・あや』の表示。
夫はおびえたように画面を瞥し、を決したように通話ボタンを押した。
「……もしもし、あや? ……ああ、旅のことだろ。……悪いんだけどさ、おたちの分の旅費、自分たちでせないか?」
受話器から漏れる声が、瞬で甲くなった。夫はソファからちがり、を掻きむしりながら部の隅へ歩いていく。
「だから! 真由美が払わないって言ってんだよ! 俺だってそんな、今すぐせるわけないだろ! ……は? 『真由美さんからのプレゼントだって母さんから聞いた』? そんな約束、あいつは言もしてねえよ! 母さんが勝に言ったんだろ!」
義母が娘に対し、私の許も取らず『嫁からのプレゼント』として豪遊を提案していた構図が、あっさりと呈した。
「せないならキャンセルするしかないだろ! キャンセル料? そんなの各自で払えよ! なんで俺が全部被らなきゃいけないんだ!」
鳴り散らし、方に通話を切った夫は、そのままにへたり込んだ。額には脂汗がっている。
私は黙って麦茶をグラスに注ぎ、んだ。かつてなら、オロオロと夫に駆け寄り、「丈夫? 私がそうか」と声をかけていただろう。だが今の私には、その背がただ滑稽で、れなものにしか見えなかった。
夫は自力で蒔いた種を、自分の財布で刈り取っているだけだ。
だが、夫という男の浅ましさは、庭内だけに留まっていなかった。
翌。夫は昨夜の取り乱しようが嘘のように、ピカピカに磨きげた級靴を履き、仕てのいいストライプのスーツに袖を通していた。