"4000円を頼んだ私に、死んだはずの父から4000万円" 第6話
「用件を聞きに来ました。座に振り込まれた千万円の通と、この鍵をお返しするために」
バッグから取りした箔のエンボス封筒を、ガラスのローテーブルのに滑らせた。老はその封筒を瞥もしない。ただ、痛む腹を庇うように押さえながら、静かに私を見つめ続けていた。
「澄は……お母さんは、どうしている」
「昨、専病院で検査を受けました。度の脈弁狭症です」
母の名をされた瞬、喉が締めつけられた。この男が、どので母の名を呼ぶのか。
「放置すれば、いつ全を起こしてもおかしくない状態です。でも、治療を受けさせます。夫と緒に、公な医療制度を使って、私たちのの届く範囲で」
「千万を、使えばいい」
老は、事も無げに言った。
「そのために振り込んだ。民の最の医療チームを呼ぶこともできる。国内で番の臓科の権威に、私が直接連絡を入れてもいい。なら、いくらでもあるんだ」
その平然とした響きに、目眩がした。このは、本当に何もわかっていない。
「お母さんが、そのおを見て何て言ったといますか?」
私は歩、テーブルに詰め寄った。
「『そのおだけは、絶対に使うな』って、私のスマートフォンを布団に叩きつけて叫んだんですよ。臓を押さえて、息を切らしながら! あなたのおを使うくらいなら、んだほうがマシだと言わんばかりに!」
広告
老の表が、わずかに歪んだ。テーブルのに置かれた皺だらけのが、微かに震える。
「澄は……相変わらず、頑固だな」
「頑固で済ませないで!」
ホテルの防音壁に、私の声が吸い込まれていく。
「なぜ、んだことにされていたんですか。私は子どもの頃、お盆のたびにお寺の納骨堂にをわさせられていたんですよ。お父さんはくにくなったから、私たちできていくしかないんだって……そう信じ込まされて、きてきた!」
「……んだことにしなければ、あのが澄と奈を許さなかったからだ」
老は線を落とし、掠れた声で語り始めた。
「私は当、グループの跡継ぎとして役員に入ることが決まっていた。親族会議で、澄との関係は猛反対されたよ。堂の娘との結婚など、あり得ないと。どうしても緒になるなら、澄を本妻にはせず、子どもだけを条の戸籍に入れ、澄には別のを用して監に置く……それが、当の老たちがした条件だった」
を疑った。
「澄は、それを拒絶した。私ので、差しされた切れの切を破り捨てて、奈を抱いてアパートをてったんだ。『度と私たちのに現れるな』と言い残してな」
「……じゃあ、お母さんがあなたを捨てたって言うの?」
「違う」
老は首を横に振った。
「私が……あのを、捨てられなかったんだ。
グループの位も、用された将来も、放す覚悟がなかった。澄を追いかけることもできず、あのが提示した体面に従った。私が、を切り捨てたんだよ」
老は自嘲するように、く息を吐いた。
「その、グループの規模を広げ、ホテルを全国に展した。も位もに入れた。だが、病気を得て、残されたがわずかだとった……に浮かんだのは、のあのさなアパートの記憶だけだった」
老は顔をげ、すがるような目で私を見つめた。
「奈。もう、スーパーのパートなど辞めなさい。油の匂いにまみれて、数円の節約のためにをげて働く必はない。澄の医療費も、これからのの活も、すべて私が保証する。条の娘として、相応しい暮らしを用させてほしい」
その言葉を聞いた瞬。
私ので張り詰めていた糸が、完全に断ち切れた。
「……私の仕事を、見さないで」
震える声で、私は言い放った。
「私はね、毎朝に起きて、スーパーの厨でキャベツを刻んで、フライヤーのにってるんです。傷だらけのでコロッケを揚げて、特売のシールを貼って、それで今べるご飯のおを稼いでるんです。私の夫も、毎油まみれになって、古い械を直して私を支えてくれてる!」
元がグラグラと揺れるような覚を、奥歯を噛み締めて踏みとどまる。
「それを『油まみれの惨めな暮らし』みたいに言わないで! 私たちがかけて、真面目に積みげてきた活を、たった千万の切できできるとわないでよ!」