"十日間の偽出張と冷めた半熟卵" 第6話
栄養剤を選んでほしいって頼まれて、し付きっただけだよ」
「そう。それで、良い栄養剤は買えたの?」
「……ああ、買えたよ」
「よかったわね」
私はそれ以追及せず、寝へ向かって歩きした。コートを脱いでハンガーに掛けようとした、背から音が迫ってきた。
「美咲、僕の話を聞いてくれ」
夫が寝の入りにちはだかった。私はハンガーを握ったまま、彼をまっすぐに見つめた。
「ええ、聞いているわ。弁があるならどうぞ」
私のあまりにも静な態度に、弘はかえって言葉を失ったようだった。彼は激しい葛藤を顔に浮かべ、線を彷徨わせた、慎に言葉を選んでをいた。
「彼女は、僕の直属の秘なんだよ。寄りのない部が族の病で追い詰められているのに、らん顔なんてできるわけがないだろう。君だって、僕のなら同じことをしたはずだ」
私は微だにせず、彼の言葉を聞いていた。
「ただ助けてあげただけなんだ。もうお母さんの容態も落ち着いたし、度とあんなに個に関わることはない。誓うよ、本当に度とかない」
夫は必に声を落とし、懇願するように言った。私は軽く頷いただけだった。
「……美咲、隠していたことをっているのか?」
私が背を向けたまま何も言わないのを見て、弘がそうに問いかけてきた。
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私はハンガーをく握りしめ、指の関節をく浮きがらせた。
「隠していたからっているんじゃないわ」
私はく息を吸い込み、え切った声で紡いだ。
「自分自があまりにも愚かで、腹がっているのよ。あなたがも病院に詰め切っている、私は馬鹿みたいに張だと信じ込んで、で待っていたのよ」
私はゆっくりと振り返り、夫の目を射抜いた。
「張の荷造りをするあなたの言葉を疑いもせず、角煮を煮込みながら、あなたが帰ってきて『おいしい』と言ってくれることだけを待ちにしていたの。弘、言ってみてよ。私が自分を惨めだとうのは、お違いかしら?」
弘は唇を震わせ、何かを言おうと息を吸い込んだが、最まで言も発することができなかった。
その夜、私たちは背を向けい、ダブルベッドの両端に張り付くようにして横たわった。
のには、広すぎる空があった。それは、私たちのが抱えている絶望な距そのものだった。
夜、私は暗ので目を覚ました。隣からは、夫の規則正しい寝息が聞こえてくる。
カーテンの隙から差し込む灯の微かなを頼りに、夫の横顔をじっと見つめた。
目に見えて頬が痩せこけ、顎には無精髭がえていた。病院のい折りたたみ子でを過ごすことが、どれほど過酷だったかは像に難くない。
それほどの苦に耐えてまで、彼は私の待つ自宅ではなく、あの母娘の傍にいることを選んだのだ。
胸を締め付けるような虚無が広がっていった。私の価値は、あの病の母親や若い秘よりも軽いのだろうか。
眠れなくなった私はベッドを抜けし、静かに斎へと向かった。
デスクの引きしをから順にけていき、番奥から台の古いスマートフォンを取りした。夫が種変更をするに使っていた端末だった。
充器を挿すと、画面に林檎のマークが浮かびがり、起した。私は画面をスワイプし、写真フォルダをいた。
そこには、の私たちの結婚式の写真が保されていた。
純のドレスを着た私の横で、し緊張した面持ちでネクタイを直す弘が写っていた。カメラは、私が彼の襟元をえ、彼がおしそうに目を細めて私を見つめ返した瞬を捉えていた。
あの頃の彼の瞳には、違いなく私への未来と希望が満ち溢れていた。
さらに遡ると、社会目の頃に交わしたメッセージのスクリーンショットが残されていた。
『今、僕たちがおじいさんとおばあさんになって、縁側でお茶をむを見たよ。目が覚めても幸せで、しばらくベッドからられなかった』
『美咲、僕がかけて君を切にするからね』
『残業で疲れただろう。オフィスので温かいコーヒーを買って待ってるよ』