"13年前に消えた母の手帳に、夫の昔の名前があった" 第6話
夫はかない。 テーブルのの類を見つめたまま、彫像のように固まっている。
「お義父さんのを運転して、母をあの倉庫に呼びした。……違う?」
い、息の詰まるような沈黙が流れた。
壁の計の針が、チク、タク、と音を刻む。
やがて、夫はゆっくりと顔をげた。 その瞳は、これまで度も見せたことのない、暗く淀んだ絶望に染まっていた。
「……誰に、聞いた」
く、掠れた声だった。 もう、言い逃れはできないと悟ったの声だった。
「倉庫の島さんよ。誌をちゃんと残してた」
夫はく息を吐き、両で顔を覆った。 指のから、震える声が漏れす。
「……親父に、頼まれたんだ」
「何を?」
「あの頃、会社の事故のことで警察や役所がきかけてて……点検表の控えを、お母さんが持ってるかもしれないって。親父が血になって探してた。俺は、親父に言われて、お母さんのに作業着をしにって……様子を探った」
母のメモの通りだった。
「晦は?」
「……話しいをするから、お母さんを倉庫まで連れてこいって、親父に言われたんだ。俺は、でお母さんを迎えにって、倉庫の事務所まで案内した。本当に、それだけだったんだ!」
夫が突然、顔をげて叫んだ。 懇願するような、れな目をして私ににじり寄ってくる。
「俺は事務所のにいた! で親父とお母さんが鳴りって……でも、親父に『おは帰れ、あとは俺が話をつける』って鳴られて、俺はを置いて先にで帰ったんだ! 信じてくれ、美奈! 俺はお母さんにをげてない!」
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「じゃあ、なんで警察に言わなかったの!?」
私の叫びが、狭いリビングに響き渡った。
「母が方になって、騒ぎになってた! 私とお父さんが、どれだけ泣きながら甲府のを探し回ったか、あなたってるでしょう!? なんで『あの、親父の倉庫に来ていた』って、言も言わなかったの!?」
夫は言葉を失い、喉を鳴らした。
「……言えるわけ、ないだろう」
絞りすような声だった。
「翌朝、倉庫にったら……親父が、青い顔をして事務所を掃除してたんだ。お母さんの姿はなかった。親父に聞いても『話しいは終わった、もう度と来るな』としか言われなかった。……もし俺が警察に本当のことを言ったら、親父が捕まる。会社も潰れる。俺のだって、全部めちゃくちゃになる……!」
保。 たったそれだけの理由で。
この男は、母親を奪われて泣き叫ぶ代の私と父を、も見殺しにしてきたのだ。
「……じゃあ、私には?」
私は涙を拭うことすら忘れ、夫を睨みつけた。
「2016の。王子の喫茶。あれは、何だったの?」
夫の体が、びくりとねた。
「偶然なんかじゃなかったんでしょう? 私が落とした類を拾った、あなた最初から私の勤め先も、母のこともってた」
夫は膝から崩れ落ちるように、フローリングのに両をついた。
「……親父が、病気で倒れたんだ」
を見つめたまま、夫は途切れ途切れにしい真実を吐きした。
「ぬ際になって、親父がうわ言のように言ったんだ。『あの女の娘が、まだ母親を探してるらしい。もし、あの類が娘のに渡ってたらどうする』って……」
のが、真っになった。
「だから……俺は確かめなきゃいけなかった。お母さんが、消えるに娘のおに何かを託していなかったかどうか。おの勤め先を調べて、待ち伏せしたんだ。王子の駅で……おが梨に通ってるのをってて、偶然を装ってづいた」
喉の奥から、乾いた笑いが漏れた。
会いのすべてが、罠だった。
私が「運命の」だと信じ、傷ついたを預けたあののの会いは、ただの証拠隠滅のための接だったのだ。
「……でも、美奈!」
夫がうようにして私の元にすがりついてきた。 私の首を掴もうとするそのを、私は本能な嫌悪で激しく蹴りばした。
「触らないで!」
「聞いてくれ! 最初はそうだった! でも、おが何も持ってないって分かったも……俺はおかられられなかったんだ!」
夫は涙とで顔をぐしゃぐしゃにしながら、必に言葉をねた。
「おと緒にいるうちに、本当に……本当にしてしまったんだ! 嘘じゃない! この、おを幸せにしたいとってきてきたのは、全部本物だったんだよ!」
「本物……?」
「ああ! だから毎、緒に梨にったんじゃないか! おが泣くたびに、俺だって胸が張り裂けそうだった! 美奈、頼むから信じてくれ! 俺はおをしてるんだ!」