みかん小説
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"13年前に消えた母の手帳に、夫の昔の名前があった" 第3話

さらに、伝票の束のから、黄ばんだメモ用が枚滑り落ちた。 母が常に使っていた、粗品のメモ帳の切れ端。

裏面に、青いボールペンでりきされた母の文字。

「作業着の若い男、宮本。また来た。」 「会社の古い点検表のことをやたらと気にしてる。」

息が止まりそうになる。 そして、その。乱暴に引かれた線のにかれていた最の。

「今、京にいる美奈の勤め先まで探りを入れてきた。偶然じゃない。この男、何か企んでる。」

血の気が引くどころではなかった。 内臓をたいで鷲掴みにされたような激痛がる。

母の帳にかれていた「美奈を佐藤の息子と結婚させてはいけない」という言葉。

あれは、未来を予したオカルトなんかじゃない。

、母はすでに気づいていたのだ。 自分の娘の居所を探り、づこうとしている気な男のに。

そして、その男こそが―― いま、私の夫としてもの、隣で笑い続けていたあのだった。

そのメモを握りしめたまま、私は実の仏でち尽くしていた。

指先から血の気が引いて、の端がかすかに震えている。

「美奈、その宮本って男……」

父がかすれた声で尋ねてきた。私は咄嗟に首を横に振った。

「ううん。お父さん、まだ何も分からない。この伝票とメモ、私が預かってもいい?」

「ああ……だが、無理はするなよ」

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父にそれ以の追及をさせないよう、私は伝票の束と帳を鞄の底くに押し込んだ。

真実を確かめなければならない。 でも、もし私の疑が正しければ――の事件の輪郭に、いま私が暮らしている常そのものが巻き込まれていることになる。

そのの夕方、央線の特急にび乗り、京の自宅へ戻った。

玄関のドアをけると、汁の優しいりが先をかすめた。

「おかえり。お義父さん、丈夫だった?」

キッチンからエプロン姿の夫がてきた。 にはお玉を持ち、いつもの穏やかな笑顔を浮かべている。

喉の奥が、ぎゅっと引き攣った。

このは、どんな顔をして私を待っていたのだろう。 私が実で何を見つけたのか、探るために待っていたのだろうか。

「……うん。ただの邪気だったみたい。横になってたよ」

「そうか、よかった」

夫は底ほっとしたように笑い、鍋のをめた。

「温かい鍋にしてあるから、くを洗っておいで。寒かっただろう」

その温もりすら、今の私には猛毒のようにじられた。

夕の、夫がリビングのソファで珈琲を淹れてくれた。 湯気の向こうから、あのが静かに私を見つめていた。

「美奈」

「……なに?」

「実で、お母さんの古い荷物が見つかったって言ってたよね」

臓が嫌な音をててねた。

「何か、掛かりになりそうなものはあった?」

「……ううん。昔の領収とか、おの雑用伝票ばかりだったよ」

私は線を落とし、マグカップの縁をなぞった。

すると、夫はごく自然な作で私の隣に腰をろし、私のえたに自分のをねてきた。

きくて、し骨張った、温かい。 、私が信じ切っていた。

「美奈。その資料、俺が預かって理しようか?」

背筋に、たい氷を押し当てられたような悪寒がった。

「美奈は来週から仕事も忙しいだろうし。俺、昔の伝票とか帳簿を見るのは慣れてるから。スキャンして、付順に並べ直してあげるよ」

あのの瞳は、どこまでも澄んでいて、どこまでも優しい。 悪など微もじさせない、ただ妻を気遣う夫の顔。

……嘘だ。

もしあのメモを渡せば、どうなる? 「宮本修平」とかれたあの伝票は、跡形もなく消えるのではないか。

「丈夫だよ」

私は無理やり角をげ、をそっと引っ込めた。

「自分で見る。お母さんの字だし……自分で確かめたいから」

「……そう。無理だけはしないでね」

夫は微笑みを崩さなかった。 だが、引っ込められた自分ののひらを、瞬だけじっと見つめていた。

翌から、私は面でき始めた。

私は文芸の編集者だ。 事実関係の裏取り、表の照、公記録の取り寄せ。 それらは常業務の延線にある。

まず調べたのは、夫の実が経営していた建設械備会社の法登記だった。

法務局で登記事項証を取得し、過の役員欄と沿革を遡る。

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