みかん小説
本棚

"13年前に消えた母の手帳に、夫の昔の名前があった" 第2話

央線のダイヤがで乱れ、王子駅の構内にある喫茶でち往していたあの。 抱えていた企画と、母の捜索願のチラシの束をにぶちまけてしまった私。

「丈夫ですか」

膝をついて、濡れたを枚ずつ丁寧に拾い集めてくれたのが、あのだった。

それが始まりだった。

「お母さん、探してるんだね」 「変だったね。で抱え込まなくていいから」

あのは、私の傷にそっと触れるように寄り添ってくれた。 すぎると敬されがちな失踪者の族という私の境遇を、あのは度も嫌がらなかった。

むしろ、誰よりもだった。 休のたびにをして梨まで連れてってくれた。 警察署への問いわせ、かつての隣民への聞き込み、ビラの配布。

「美奈、諦めなくていいよ。俺がずっと緒に探すから」

その言葉に、私はどれほど救われただろう。 から謝していた。このと巡りえた奇跡を、神様に謝していた。

……でも。

今、あのの記憶を繰り寄せる私の背筋に、氷のような悪寒がる。

喉に骨が刺さったような違が、次々と蘇ってくる。

初めて喫茶で会ったあの。 私はまだ、母の名も、実が何をしていたのかも話していなかった。

なのに、拾いげた類の束を返してくれる、あのは何と言った?

「お母さん、昔、甲府でクリーニングさんやってたの?」

広告

当の私は、自分が落としたビラに「川クリーニング」とかれていたから読んだのだと信じ込んでいた。

でも、あのに散らばったのは、版社に提する雑誌のゲラ刷りと、母の顔写真が印刷された用だけだった。 名なんて、どこにもいていなかった。

夜、夫の実の客で、夫が寝息をてるのを待った。 寝息を確認してから、布団のでスマートフォンをいた。

以の、あのと会ったばかりの頃のメッセージ履歴を狂ったように遡る。

会って週目。 あのが「仕事で梨にったから」と送ってきた景写真。 甲府の寂れた裏通り。

画面を限界までピンチアウトして拡する。

の奥に映り込む、錆びたトタン根。 シャッターがりた古い平の板。

そこには、母のの号が、はっきりと写り込んでいた。

たまたま通りかかったのではない。 あのは、最初からあそこが母のだとっていて、写真を撮っていたのだ。

元の朝。 え切ったの空が窓のに広がっていた。

私は夫に「実の父の体調が優れないみたいだから、顔をしてくる」と告げた。

夫は引き止めなかった。 「で送ろうか?」と尋ねる瞳の奥に、昨までは見えなかったたい探りいのが混ざっていた。

「丈夫。お父さんとで片付けたい類もあるし、でくから」

「……そう。無理しないでね」

夫は玄関先で私のマフラーを直してくれた。 その指先が首筋に触れた瞬、鳥肌がつのを隠すため、私は咄嗟に顔を背けた。

央線のにび乗り、甲府の実へ向かった。 窓ガラスに映る自分の顔は、のように青かった。

実の仏壇のあるには、埃をかぶった段ボール箱がいくつも広げられていた。 父は徹夜で目を真っ赤に充血させ、母が残したの業務伝票の束を枚ずつめくっていた。

「美奈、これを見てくれ」

父のが、刻みに震えていた。

差しされたのは、20131218の付が入った、クリーニングの預かり伝票の控え。 複写式のカーボンが擦れ、いの文字が浮かびがっている。

品名:作業着、防寒ジャンパー。 そして、お客様控えの署名欄。

「宮本修平」

あの几帳面でった、夫の跡そのものだった。

宛先としてかれていた会社名は、夫のき義父が経営していた、甲府内の型建設械の備会社。

母の失踪は、20131231。

消えるわずか週、夫は母のに客として通っていたのだ。

私のは、が擦れる音をてるほど激しく震えていた。

母は、夫をっていた。 夫も、母をっていた。

それなのにあのは、会ったから今までの、 「お母さんはどんなだったの?」 「美奈はお母さん似だね」

と、々しく私に尋ね続けていたのだ。

の結婚活のすべてが、元から音をてて崩れ落ちていく。

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: