"忘れた財布が暴いた、娘の結婚の地獄" 第14話
自己破産も認められず、私たちの老資もすべて吐きしました。それでもりなくて、先祖代々のあのを放すしかなくなったんです」
義母の目が涙で潤み、持っていた使い古されたバッグを握りしめるがく震えている。
「を売れば、ご所にも全部られてしまいます……。息子は転勤になったと言い張ってきたのに、もうこの町にはめません。さやかさんが、あんな勝な真似をして警察汰にしなければ、こんなことにはならなかったのに……っ」
最まで、このは何も理解していなかったのだ。 息子が犯した暴力と正という現実に目を向けるのではなく、ただ「世体」という名のが崩壊したことだけを嘆いている。 その世体を守るために嘘をね続けた結果が、この破滅だった。
私は義母の言葉を遮ることなく最まで聞き届け、そして静かにをいた。
「さやかが警察を呼んでいなくても、いずれ会社の監査で発覚していたはずです。会社が純平さんを訴えたのは、彼自がにわたって正を働き、会社の信用を裏切ったからです。娘のせいでも、誰のせいでもありません」
徹な事実を突きつけると、義母は息を呑み、言葉を失った。
「純平さんは今、自分のいの責任を、自分自で取っているだけです」
義母は力なく項垂れた。
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もう言い返す気力も残っていないようだった。 さく丸まった背を見せながら、を引きずるようにしての自ドアの向こうへと消えていった。
その背を見送りながら、私は静かな納得を噛みしめていた。 私たちは誰として、あの男や義母に復讐などしていない。 暴力で者を支配し、体裁を取り繕って嘘のに築きげたは、現実というが当たった瞬に、自らのみで崩れっただけなのだ。
がけ、柔らかなの気配が漂い始めたの曜。
私は所の農から分けてもらった採れたての野菜と、真っ赤な苺のパックを抱えて、娘のしいアパートを訪ねていた。 駅から歩いて分ほどの、閑静な宅にある階建てのアパート。
階の角部のにち、私は鞄のポケットにを入れた。 指先が、娘から預かっていたピカピカのしい鍵に触れる。
『何かあった、お母さんが持っていてくれた方がだから』
そう言って娘が渡してくれた鍵。 自分でけて入ってしまえばい。娘もりはしないだろう。 けれど私は、鍵を取りすのをやめた。
ここは、あの子が自らの力で守り、作りげたなのだ。 親だからといって、境界線を踏み越えていい理由にはならない。
私は鍵を鞄の底へ戻し、インターホンのボタンを差し指で静かに押した。
ピンポーン
澄んだ子音が、静かな廊に響き渡る。
「はーい!」
すぐにスピーカーの向こうから、弾むような娘の声が返ってきた。
「お母さんよ。野菜と苺をもらったから、お裾分けに来たの」
「あ、お母さん! 今けるね!」
パタパタとりの音がづき、内側からガチャリと鍵がく音がした。 扉がきくかれる。 エプロン姿の娘が、満面の笑みで迎えてくれた。
「いらっしゃい、寒かったでしょう。ちょうどお茶を淹れようとってたところ」
「しえるわね。はい、これ」
野菜の袋を渡すと、娘は嬉しそうに受け取り、私を部へと招き入れてくれた。
向きの窓から、の柔らかな差しが部いっぱいに差し込んでいる。 さな部だった。 具も最限のものしかなかった。 けれど、窓辺には青々とした観葉植物の鉢が並び、テーブルのには娘がしく掛けているデザインのラフ画が何枚も広がっていた。
復帰したデザイン事務所で、娘はさな案件のチーフを任されるようになったという。 「自分の名で仕事がせるのが、本当に嬉しい」と語る娘の瞳は、かつての怯えを完全に脱ぎ捨て、誇らしげに輝いていた。
温かいほうじ茶を啜りながら、私たちはのない世話にを咲かせた。 しく始まったドラマの話、商の百の主の話。
純平の名も、過の暗いも、の会話にることは度もなかった。
ほど楽しいを過ごし、私はちがった。