"忘れた財布が暴いた、娘の結婚の地獄" 第12話
あんな修羅を、でくぐり抜けたのだ。 平気なはずがなかった。
「怖かったわね……よく頑張ったわ。本当に派だった」
私が娘のを包み込み、温めようとさすっただった。 娘は俯いたまま、さく首を横に振った。
「……怖かった。臓が破裂しそうだった」
娘の声は震えていた。 けれど、その目から溢れた涙は、頬の傷を伝って温かく零れ落ちていた。
「でもね、お母さん。私、言えたよ。自分の言葉で、ちゃんと断れた……」
「ええ、見ていたわ。最にかっこよかった」
私の言葉に、娘は泣き笑いのような表を浮かべた。 私は娘の肩を抱き寄せ、優しく背をさすった。
「もう何も配いらないわ。これからは実で、私の料理をべて、ゆっくりと体を休めなさい。何かかってもいいのよ」
母親として、からの堵とともににした言葉だった。 もうあの子を危険な目に遭わせたくない。 私のの届く所で、切に守り育て直したい。
けれど、娘の反応は私の予とは違っていた。
娘はゆっくりと顔をげ、涙をの甲で拭った。 そして、私の目をまっすぐに見つめ返してきたのだ。
その瞳の奥には、親に甘える子どものさは微も残っていなかった。
「お母さん」
「なあに?」
娘はく息を吸い込み、たいので、はっきりとこう告げた。
「私ね、実をて、さなアパートを借りてで暮らしたいの」
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……え?
私の考が、瞬止した。
「……実じゃ、ダメなの? 私と緒に暮らせば、賃も活費もかからないし、全よ」
戸惑う私に対し、娘は首を横に振った。 その表は、先ほど純平と対峙していたと同じ、揺るぎないの女性のものだった。
「お母さんの優しさは、本当に嬉しい。でもね、私、ずっと誰かの庇護ので、誰かの顔を窺ってきてきたの。あのの顔を窺って、実に帰ったら今度はお母さんに配をかけないように顔を窺って……それじゃ、私はずっと自分のでてない」
娘は自分の胸のに、そっとを置いた。
「さくて古くてもいい。当たりが良くて、静かな部を自分で見つけたいの。鍵を自分で閉めて、自分で気をつけて、今の夕飯を何にするかも、何に起きるかも、全部自分で決めたい。……私、自分のを、自分のでやり直したいの」
娘のまっすぐな瞳を見つめ返した瞬、喉の奥がツンと痛んだ。
ほんの瞬だけ、胸の奥で親のエゴが蠢いた。 まだ傷も癒えていないのに。 で暮らすなんて危なっかしい、実で私の料理をべていればいいのに、と。 過保護な母親の殻に、もう度この子を閉じ込めてしまおうとしたのだ。
けれど、あの子の引き締まった元と、凛とした差しを見た、その迷いは瞬で消えった。
この子はもう、私の保護を必とする幼い子どもではない。 獄のような支配を自らの志で打ち破り、を向いて歩きそうとしている、の自したの女性なのだ。
「……分かったわ」
私はたいので、きく頷いた。
「あなたの部を探しましょう。当たりが良くて、静かで、あなたが呼吸できる所を」
私の言葉に、娘の張っていた肩から、すうっと力が抜けた。 ぽろぽろと零れ落ちた涙を指先で拭いながら、娘はくしゃりと顔を崩して笑った。 その笑顔を見た、私はから確信した。 この子は、もう度とあの男の呪縛には戻らない。
季節はにみ、真の厳しい寒さが横浜のを包み込んでいた。
林弁護士の腕により、婚協議は驚くほど迅速にんだ。 あの会議での警察汰と警備員による取り押さえが決定となり、相方の弁護士ももはや復縁の主張を取りげざるを得なかったのだ。 財産分与と慰謝料の支払い条件がい、純平が署名・押印した婚届が提された。
半くに及んだ暗の々が、枚の類によって法に断ち切られた。
娘は実からで駅ほどれた、古いけれど向きのきな窓があるアパートを見つけ、自分名義で賃貸契約を結んだ。 引っ越しを終えてからの数週、娘は仕事のを縫って、でを駆け回っていた。
区役所での続き、警察署での運転免許証の変更、座の名義変更、クレジットカードや保険のき換え。