みかん小説
本棚

"忘れた財布が暴いた、娘の結婚の地獄" 第11話

静まり返った部に、娘の凛とした声が落ちた。

「をげて、純平さん」

純平がびくっと肩を揺らし、すがるように顔をげた。 許しが得られるとでもったのか、その瞳にかすかな期待のが宿る。

けれど、娘のから紡ぎされた言葉は、その浅ましい期待を々に砕するものだった。

「カウンセリングを受けるのは、あなた自のの課題よ」

純平の表が凍りつく。

「あなたが自分の暴力を治そうと努力することは、あなたがこれからので引き受けるべき責任であって、私をあのに連れ戻すための取引条件じゃない」

言言、言葉を噛み締めるように、娘は淡々と続けた。

「私が悪かったんじゃない。あなたがりをコントロールできずに、私を殴った。そしてあなたは今、私を失うのが怖いんじゃなくて、妻に逃げられた自分や、周囲から責められる自分のが怖いだけでしょう」

「さ、さやか……何を言ってるんだ? 俺はからおをして――」

「してなんかないわ」

娘はややかに言い切った。

「あなたはただ、自分のい通りになる便利なを元に置いておきたかっただけ。私の仕事をバカにして、友達を奪って、実に帰ることも許さなかった。……純平さん。あなたがどれだけ泣いて謝っても、私はもう戻らない」

純平の顔から、急速に気が失われていく。

広告

男はわなわなと唇を震わせ、掠れた声で娘を睨みつけた。

「……お、本気で言ってんのか? たった度をげただけで、全部帳消しにする気かよ? 誰のおかげで今まで飯がえてたとってんだ! できていけるわけないだろうが!」

れな懇願のメッキが剥がれ落ち、底からドロドロとした本性が剥きしになる。 その醜悪な形相をにしても、娘は微だにしなかった。

娘は背筋をピンと伸ばし、まっすぐに男の目を射抜いた。

「で暮らすことより、あなたと暮らし続けることの方が、ずっと怖いの」

部の空気が、完全に止まった。

「どんなに活が苦しくても、自分の志で息ができる方が何倍もいい。……もう度と、あの部には戻りません。婚届に判を押してください」

完璧な、決別の言葉だった。

純平は目を見いたまま、言葉を失って固まっていた。 どんなに鳴っても、どんなに座しても、目のの女が度と自分の支配には戻らないことを、男の歪んだ脳髄がようやく理解した瞬だった。

次の瞬、純平の顔がりで真っ赤に沸騰した。

「ふざけんなよ! この恩らずが! 誰の指図だ! 母親か!? あのクソババアが余計な恵を吹き込んだんだろ!!」

からね起き、テーブルを乗り越えようとを伸ばす。 その目は血り、唾を撒き散らす獣そのものだった。

「やめなさい、森田さん!」 「警備員、く!」

相方弁護士の制止の叫びと、林先の鋭い指示がなる。 即座に待していたの屈な男性警備員が会議へ踏み込み、暴れる純平の両腕を背骨のろで固めた。

「せ! さやか、おい! 許さねえぞ、ただで済むとうなよ!!」

号と罵声を撒き散らしながら、男は廊の奥へと引きずりされていった。 バタン、とい防音扉が閉まり、会議にい静寂が戻る。

残された相方の弁護士は、真っ青な顔でハンカチを取りし、額の脂汗を拭っていた。

「……変、失礼いたしました。本のご様子を拝見し、修復の余がないことはです。当方としても、依頼を説得し、速やかに条件協議に入らせていただきます」

弁護士のその言葉で、事実の勝負は決した。 あの男が何もかけて築きげてきた「誠実で温な夫」という社会な仮面は、自らの制御能な暴力性によって、公ので完全に々に砕け散ったのだ。

法律事務所のエントランスをると、のたいが私たちの頬を打った。 空は暗くなり始め、灯がぽつぽつと灯り始めている。

ビルをた途端、娘のがふらりと揺れた。 私は慌ててその細い体を支え、くのベンチへと座らせた。

「さやか、丈夫!?」

娘の顔は蒼で、唇のも抜けていた。 膝のに置かれた細い指先が、刻みに、激しく震えている。

全の筋肉が張り、極限の緊張から解放されたことで、激しい脱力に襲われているのだ。

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: