みかん小説
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"忘れた財布が暴いた、娘の結婚の地獄" 第5話

「さやか」

背から肩にを置くと、娘の体がびくっとねた。 まるで、直した針に触れたような触だった。 胃の奥がたく縮みがるのが分かる。

「……見られたんだ」

娘のから、掠れた呟きがこぼれ落ちた。

「見られたって、何を?」

娘は答えず、ただ目を見いて画面を見つめている。 何を隠していたというのだろう。 浮気や借などではないことは、母親である私には痛いほど分かっていた。 あの男の支配で、息を潜めてきることしか許されていなかったあの子が、何を。

「さやか、丈夫よ。ここは私の。あの男は入ってこられない」

私の声に、娘はようやくさく瞬きをした。 そして、恐る恐る自分のトートバッグにを伸ばすと、その底から冊のい帳を取りした。

季の入った、くたびれた紺のスケジュール帳。 ページをめくる娘の指先は、ひどくえ切っていた。

「……これ」

差しされたページを見て、私の喉の奥が引き攣った。

そこには、几帳面な娘の字で、過数ヶの記録がびっしりとき込まれていた。 けれどそれは、常の予定ではない。

『○○、帰宅すぐに財布とスマホの履歴を確認される』 『○○、デザイン案件の請求を破棄される。「無駄な遣い稼ぎはやめろ」と鳴られる』 『○○、リビングで突きばされる。肩打撲』 『○○、支援センターの無料話相談(20分通話)』

付の横には、暴力を振るわれたと、男が吐き捨てた言葉の数々が克に記されていた。

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帳のポケットには、旧姓で作ったしい方の通帳と、実印、そしてデザインの過実績をまとめたさなUSBメモリが挟み込まれていた。

「……ずっと、準備してたの」

娘は膝ので両をく握りしめ、ぽつりと言った。

「あの部にいたら、いつか自分が壊れてしまうって分かってた。でも、通帳も保険証も全部あのが管理してて……自由になるおもなくて。昔のクライアントにこっそり連絡して、しずつさな案件を引き受けて、そのおをこの通帳に隠してたの」

涙が、帳の面のにぽたぽたと落ちる。

「をるためのアパートの初期費用を、あとしで貯められるところだった。でも、先週……パソコンの作業履歴をあのに見られて。なんで勝に仕事してるんだって、激されて……」

昨の曜、私が訪ねていく直にも、男は娘の持ち物を漁っていたのだ。 そして、帳の最の。 殴られたあの曜の付の横に、震える文字でたった言だけ、こうかれていた。

『お母さんに話す。』

文字が、私の涙で滲んで見えなくなった。

あの子は、耐え忍んでいただけではなかった。 恐怖に縛られ、尊厳を削り取られながらも、必で暗からいそうと掻いていたのだ。 助けを求めて、私にすべてを打ちける覚悟を決めていたのだ。 あの昼がり、私が呑気に娘の淹れてくれたお茶をんでいたその、娘はこの帳を胸に抱えて、必に言葉を探していたのだ。

「気づいてあげられなくて、ごめんね……本当に、ごめんね」

私は娘の細い体を抱きしめた。 娘は私の胸ので、子供のように声をげて泣きじゃくった。

泣き疲れてし呼吸がった頃、私はちがり、棚の引きしから使い慣れたデジタルカメラを取りした。

「さやか。辛いかもしれないけれど、写真を撮らせて」

娘は瞬だけ戸惑うように線を落とした。 自分の醜い傷跡を直することへの、い抵抗。

「あいつの言葉にこれ以怯えないための、あなたを守る盾になるの。証拠を残しましょう」

私の言葉に、娘は静かに頷いた。

窓際のるい所で、赤黒く腫れがった頬に定規を添え、何枚もシャッターを切った。 首に残る、指の形そのままの濃いの鬱血も、角度を変えて克に記録した。 液晶画面に映しされる客観な暴力の痕跡を見て、娘の瞳に、静かでたいが宿り始めていた。

翌朝、台所の向きの窓から静かな朝が差し込んでいた。

鍋で噌汁を温めていると、廊を歩く音が聞こえ、娘が起きてきた。 昨夜よりはし腫れが引いたものの、青黒い痣は痛々しく残っている。

「おはよう、お母さん」

「おはよう。しは眠れた?」

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