"「次男にこの家を譲ります」義母が宣言したのは私名義の家だった" 第19話
梨弁護士が、鞄から枚の類を取りした。
『使用貸借契約解除』
テーブルのに広げられた類には、すでに私の署名と実印が押されている。
「子様。本面へのご署名とご捺印を以て、本物件の使用貸借契約は正式に終となります。退期は来週の曜。鍵の引き渡しについては、亮介様を通じて当職が受領いたします」
義母は震えるでボールペンを握った。 元の類を見つめ、何度も躊躇いながら、やがて自分の名を、ゆっくりと、震える跡でき込んだ。 朱肉をつけ、印鑑を押す。
カツン、とさな音が、静まり返った居に響いた。
これで、法な鎖はすべて断ち切られた。 に及ぶ、すぎた善の猶予期が、完全に幕を閉じたのだ。
ちがった義母は、度も私と目をわせないまま、亮介に肩を支えられて玄関へと向かった。 がり框をりる際、義母のがわずかによろめく。 亮介が慌ててその体を抱き留めた。
「母さん、丈夫か?」
「……丈夫よ。階段のないにくんだから」
そのさな呟きを残して、は玄関のドアをけててった。 たいの差しのに消えていくの背は、かつて料亭で見せた尊さのかけらもなく、ただ老いと困窮を背負った、どこにでもいる母と息子の姿だった。
。を過ぎたばかりの平。
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私は庭裁判所の調をて、弁護士の梨先と並んで鉄の駅へと向かっていた。
コートのポケットには、今正式に成した『調婚成証』が収められている。
健太との婚は、あっけないほど事務に終わった。 調の席に現れた夫は、髪をぼさぼさに伸ばし、物のスーツの背を丸めていた。 営業課の役職は解かれ、平社員への格と減が決まったという。 亮介の債務理に伴い、連帯保証である夫も弁護士を通じて任理の続きに入り、々の返済に追われる活が始まっていた。
調委員ので、夫は最に度だけ、私に向かって懇願した。 『美咲……本当に、もうやり直せないのか? 俺、を入れ替えて、借も全部で返すから……』
私は、調委員を介して、ただ言だけ答えた。
『信頼は、失われたおとは違って、分割返済で元に戻るものではありません』
夫はそれ以、何も言えなくなった。 婚姻期の共財産については、夫の背負った連帯保証債務を完全に除したで、預貯を法定通りに清算した。 私の婚資産であるあの戸建てと事務所の資には、ミリの指も触れさせなかった。
「美咲さん、本当にお疲れ様でした」 改札ので、梨先が穏やかに微笑みながらをげた。 「完璧な幕引きでしたね。
に流されず、法と事実の境界線を守り抜いたあなたの勝利です」
「先のおかげです。ありがとうございました」
く礼し、先を見送った。 駅のホームに吹き込むはまだたかったが、胸の奥を刺すような寒さはもうどこにもなかった。
私はそのままに乗り、港区のあのへと向かった。
曜に義母の退が完し、亮介から梨先の事務所へ鍵が返却されたばかりだった。 ぶりに、真ので「私のもの」として戻ってきた。
最寄り駅をり、宅の坂を登っていく。 かつてはここを歩くたびに、「また義母の嫌を取らなければならないのか」「いつまでこの曖昧な状態が続くのか」と、胃のあたりがくなったものだった。 だが今は、歩を踏みすごとに、体が軽くなっていくのが分かる。
扉をけ、玄関の鍵穴に、自分のキーケースから取りした真鍮の鍵を差し込んだ。 カチャリ、と気よい属音が鳴り、ドアがく。
「……広いな」
わず、独り言が漏れた。
荷物がすべて運びされたのは、驚くほどガランとしていて、音がに反響した。 親戚を集めるために無理して置かれていた巨なダイニングテーブルも、居座るように置かれていた茶箪笥も、何つない。 畳の部には、具の置かれていた角い跡がくっきりと残り、壁にはカレンダーや額縁が掛けられていた焼けの跡がく浮きている。
、の活がここにこびりついていた証拠だ。