"「次男にこの家を譲ります」義母が宣言したのは私名義の家だった" 第2話
と騒ぎてれば、私はたちまち「困窮する親族を見捨てる、欲い酷な嫁」として処理される。 夫はそれを最初から理解したで、この席を選んだのだ。
逃げを塞ぎ、親族の「空気」を使って、私のを封じるために。
私のは、膝ので微かに震えていた。 りではない。 、背を預けてきたはずの男が、私の善を踏み台にして背から刺してきたという、底れない恐怖。
息をく吸い込む。 指先の震えを太ももに押し当て、呼吸をえた。 に叫んだら、その瞬に夫の惑通りになる。
私はゆっくりと、卓のの塗り箸を置いた。 カチリ、とさな音が、静まり返った座敷にたく落ちる。
「健太さん」
を切交えず、ただ事実だけを確かめるトーンで呼びかけた。 夫の肩が、びくりとねる。
「あなた、私に言の相談もなく、どうしてみんなので『決めたこと』として話しているの?」
夫は唾をみ込み、ようやく私へと線を落とした。 その瞳の奥には、罪悪ではなく、こちらの方を伺う卑怯な警戒だけが宿っていた。
「……相談したら、おが絶対に反対するって分かってたからだ」
息が止まりそうになった。
反対すると分かっていたから、根回しをして堀を埋めた。 私の志など最初から聞く気はなく、ただ既成事実の濁流に押し流して、首を縦に振らせるつもりだったのだ。
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私が断る権利すら、この男にとっては「邪魔な障害」に過ぎなかった。
「おは昔からそうやって、契約だの境界だの、たいことばかり言う」 夫は親族たちに聞こえるように、わざと嘆息混じりに吐き捨てた。 「俺の族を、助けてやってくれよ。それともおは、弟のがどうなってもいいっていうのか?」
周りの親族たちが、息を潜めて私を見つめている。 義母は「さあ、どうするの」と言わんばかりに、憐れみを含んだたい笑みを浮かべていた。
そのだった。
「……待ってくれよ」
座敷の末席から、掠れた声が割り込んできた。 義弟の亮介だった。
顔面を真っにした亮介が、腰のまま兄を見つめている。
「兄貴、何なんだよ、それ……。兄貴は先週、嫂さんとはもう話がついてるって言ったじゃないか。ちゃんと納得してもらってるから丈夫だって……!」
空気が、再び凍りついた。 親族たちの線が、今度は夫へと突き刺さる。
私はめ切った緑茶を気にみ干した。 茶の渋みだけが、麻痺しかけた舌のに々しく残っていた。
料亭をたの記憶は、ひどく曖昧だった。
親族たちの居の悪そうな会釈、義母の満げな舌打ち、そして亮介が何かに怯えるようににっていったろ姿。 体調回復を祝うはずだった宴席は、見るも無残に崩壊していた。
第京浜を川崎方面へ向かう内には、苦しい沈黙が澱のように溜まっている。
夜の帳がりた首都の面を、灯の規則正しいオレンジのがフロントガラス越しに流れていく。
夫はハンドルを両で握りしめたまま、方のテールランプだけを凝していた。 度もをかない。 まるで、沈黙を守り通せば、あの料亭で犯した暴挙がなかったことにでもなるとっているかのようだった。
「健太さん」
助席から、静かに声をかけた。 フロントガラスに反射する夫の顎が、微かに張る。
「何だよ」
「何、あのを『藤澤の本』だって親族に言いふらさせていたの?」
「……言いふらしてなんかない」 夫は苛ちを隠そうともせず、乱暴にウインカーをした。 「母さんは親父をくして、期本当に落ち込んでたんだ。広いにんで、親戚の集まりでし格好をつけたがっただけだろ。それくらい、言わせておいてやればいいじゃないか」
「言わせておけばいい?」
私の声が、自然とくなった。
「あのは、私のものよ。、お義父さんが倒れて会社の借の理で賃貸を引き払わなきゃいけなくなった、く当てがないを助けたのは誰?」
夫は答えず、歯をいしばる。
の景が、網膜の裏に焼き付いている。 当、義父が細々と経営していた個商がき詰まり、自宅兼舗を放すことになった。 む所を失い、親戚からい目で見られてさくなっていた義父と義母。