"大手術の3日後、夫が勝手に進めていた旅館の経営移管" 第15話
「あなたのキャリア?」
「俺はこの旅館に尽くしたんだぞ!!」
夫は廊の壁を激しく叩き、喉が張り裂けんばかりに絶叫した。
「、おので、おの母親ので、どれだけ惨めないをして耐えてきたかおにわかるか!? たった度の病気で……たった度の失敗で、俺のを全部ゴミ箱に捨てる気かよ!!」
暗い廊に、夫の叫びが反響する。 私は痛む腹部をで押さえ、ゆっくりと息を吸い込んだ。
そして、由美のをそっとし、自分のだけで、まっすぐに夫のにち塞がった。
廊のたい空気が、肌を刺す。
傷を庇うをゆっくりとろし、私は夫の充血した目を正面から見据えた。
「……、尽くした?」
声は、自分でも驚くほど静かだった。 興奮も鳴り声もない。ただ、事実だけを平坦に並べるための声。
「そうだよ! 俺がおので、母親の顔を窺いながら、どれだけをげて回ってきたか! それを全部なかったことにするのかよ!」
夫の叫びが、気のない渡り廊の梁に反響する。 両を振り回し、額に青筋をてて私を睨みつける男。
その姿を見つめながら、私は自分の胸の奥が、かつてないほどえ切っていくのをじていた。
「、あなたは見荘で働いてくれた。それは事実よ。謝もしてきたわ」
「だったら――」
「でもね、俊介さん」
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私は歩、夫のほうへ踏みした。
「働いてきたことと、私の病気につけ込んで旅館を奪うことは、まったく別の問題よ」
夫の喉が、引き攣ったように鳴った。
「あなたは、会社から役員報酬並みの料を受け取ってきた。営業も、交際費も、見荘の経費からしていたわ。度だって、無で働かせたことなんてない」
「の問題じゃないって言ってるだろ! 俺は、この旅館の主になりたかったんだ!」
「なら、どうして正面から私に言わなかったの?」
夫の線が、わずかに泳いだ。
「『自分の旅館を持ちたい。独したい』って、どうして相談してくれなかったの? 本当にあなたに覚悟と事業計画があるなら、私は応援したかもしれない。資の面だって、緒に考えたかもしれない」
廊の空気が、ピシリと凍りつく。
「でも、あなたはそうしなかった。リスクを背負ってから始める勇気もないくせに、私がベッドのでぬかもしれないと怯えていたその瞬を狙って、母が残したすべてを掠め取ろうとした」
「……あ、綾子……」
「元で言ったわよね。『ようやく俺のやり方でできる』って」
夫の顔から、急速に血の気が引いていった。
「あの、私の元で囁いたあの言葉こそが、あなたのの本音よ。妻の命なんてどうでもよかった。私がねば、守ってきた簾も、常連客も、このも、全部タダでに入ると皮算用していただけ」
夫は唇を震わせ、何かを言い返そうとをもごもごかした。 けれど、てくる言葉はなかった。
事実という名の鉄板が、逃げを完全に塞いでいた。
「もういいわ。あなたの言い分はすべて聞いた」
私は背の野寺先に線を送った。 先はさく頷き、胸ポケットから枚の面を取りして夫に差しした。
「望俊介殿。株式会社見荘の代表取締役・望綾子の名義にて、本付で貴殿を支配職から解任し、自宅待を命じます。また、会社の業務に関する切の権限を止いたします」
「……は? 待……? 解任……?」
「来週以、弁護士同席のもとで、過の交際費の精算、および今回の無断契約未遂に伴う損害についての調査をいます。会社のパソコン、帳の鍵、社用のキーを、今すぐこちらへ返還してください」
夫は差しされた面を見つめたまま、凍りついたようにかなかった。
「お……本気なのか? 俺を、クビにする気か……?」
「クビではないわ。まずは自宅待よ。就業規則と労働基準法に則って、正当な続きを踏ませてもらうだけ」
「夫婦だろ……!? なんでそんなのような続きをするんだよ!」
「のような真似をしたのは、あなたでしょう」
私はたく言い捨て、由美にを添えた。
「事務所の私物だけまとめて、今に旅館からていって。自宅の鍵はけてあるけれど、会社の類や印鑑を持ちそうとしたら、即座に警察へ通報するよう野寺先にお願いしてあるから」