"大手術の3日後、夫が勝手に進めていた旅館の経営移管" 第10話
「つ練習を始めますよ。無理は禁物ですが、かさないと癒着がみますからね」
理学療法士の若い男性が、ベッドの脇に歩器を据え付けた。
術目の朝。 腹部には、まだホチキスのような医療用ステープラーが何個も並んでいる。 じろぎするだけで、皮膚と内臓が引きちぎられるような激痛がった。
ベッドから両をろす。 裏がリノリウムのたいに触れた瞬、目のがチカチカとく滅した。
「……っ」
喉の奥から、乾いた呻きが漏れる。 や汗が全から噴きし、病が肌に張り付いた。
「望さん、呼吸を止めないで。ゆっくり、腕の力でちがって」
痛い。 痛くて、胃の腑が裏返りそうだ。 っているだけで、傷が裂けて血が噴きすのではないかという恐怖に襲われる。
でも、座り込むわけにはいかない。
目を閉じれば、箔押しの案内状に踊っていたあの文字が浮かぶ。
『運営体制 発記レセプションのご案内』 『主催:統括責任者 望俊介』
あの男と女は、私がこのベッドので脂汗を流している今も、見荘の広で祝杯をあげる準備をめているのだ。 母が守った帳にで踏み込み、私を「にゆく過の遺物」として葬りるために。
「……ん……っ!」
歩器のバーに体を預け、私は震える膝を伸ばした。 傷が猛烈に引き攣る。
広告
界がぐらりと揺れたが、奥歯を噛み締め、両でを捉えた。
「素らしいです、望さん。初でここまでてれば来ですよ」
理学療法士が嘆の声をあげる。 けれど、私の目標は「つこと」ではない。
週。 見荘の広まで、誰のも借りずに歩いていくこと。 あのが作った虚飾の台を、私ので踏み潰すこと。
それだけが、今の私を支える唯の酸素だった。
ベッドに戻るとすぐに、私は由美と野寺先を病に集めた。
点滴スタンドの横のさな丸テーブルに、ノートパソコンと関係類が所狭しと広げられる。
「野寺先、と主取引先への通はどうなりましたか?」
私の問いに、野寺先は持参した黒いブリーフケースから、配達証付き内容証郵便の控えを取りした。
「すべて発送を完しました。株式会社見荘の取引先主、および旅代理社に対し、代表取締役・望綾子の名義で『現点で経営体制の変更、代表権の移譲、あるいは包括な業務委託のは切しない』旨を正式に通達してあります」
「の反応は?」
「駿信の支からすぐに連絡が入りました。ご主が先週、『体制移に伴う運転資枠の設定』をで打診してきていたそうです。もちろん、代表の印鑑証も委任状もないため相にしていなかったようですが、今回の通達で完全に融資のは塞がれました」
私はさく息を吐いた。 夫はそこまでを回していたのだ。 私の名義でたな借を背負わせ、そので相澤真理子の会社にコンサル料を垂れ流す算段だったに違いない。
「それから、芳さんから報告がありました」
由美がスマートフォンの画面を見せながら言った。
「予約システムの管理者権限、芳さんのでパスワードを完全に変更したって。今、見荘の予約管理と顧客台帳にアクセスできるのは、芳さんとお姉ちゃんのだけ。京から来ていた相澤真理子のスタッフは、パソコンの画面すらけなくなって、帳でち往してるそうよ」
「……夫は何をしているの?」
「鳴り散らしてるみたい。『業務妨害だ』って芳さんに詰め寄ったらしいけど、芳さん、ビクともしなかったって。『私は代表取締役の望綾子から直接指示を受けております。文句がおありなら代表へどうぞ』って言い放って、帳の奥に引っ込んだって」
胸の奥がくなった。 母の代から見荘にを捧げてくれた芳さん。 夫の威圧に屈せず、私のを守ろうとしてくれている。
その、テーブルのの私のスマートフォンが激しく震えた。 画面に表示されたのは、見覚えのないメールアドレス。 だが、件名を見た瞬、臓がたく収縮した。
『通:株式会社見荘 御(代表取締役 望綾子様)』