"大手術の3日後、夫が勝手に進めていた旅館の経営移管" 第6話
画面にる文字は――『俊介』。
「……なくていいわ」
私が呟いた瞬、話は切れ、て続けに由美の画面にメッセージが届いた。
『由美ちゃん、今病院にいるんだろ? 綾子に代われ。芳の奴が帳の庫の鍵を隠して、業務の引き継ぎを拒否しやがった。綾子の差しだろ。く代われ』
文字の端々から、夫の焦燥と苛ちが滲みていた。
由美がりをわにしてスマホを睨みつける。 私がさく頷くと、由美は通話ボタンを押し、スピーカーに切り替えた。
受話器の向こうから、夫の荒い息遣いが聞こえてきた。
『おい、綾子! お、寝たきりのくせに余計な真似するな!』
夫の第声は、妻の体調を気遣う言葉ではなかった。
『芳に何を吹き込んだんだ? 予約システムの管理パスワードを変更しやがった! 相澤さんのスタッフが京から来て、現でち往してるんだぞ! 俺の顔にどれだけを塗れば気が済むんだ!』
「……を塗ったのは、どっちかしら」
私は痛む喉から、静かに言葉を絞りした。
「株式会社見荘の代表は私よ。私が許していない部のを、なぜ旅館の帳にち入らせるの?」
話の向こうで、夫が舌打ちをした。
『だから言っただろ! おの病気がいつ治るかわからないから、プロの会社を入れて体制をえてるんだって! なんでそれがわからないんだ? おが固になって現を混乱させて、旅館が潰れたらどうするんだよ!』
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「潰れかけさせているのは、あなたよ。野寺先から取引先とに、正式な通を送ってもらう配をしたわ。あなたの持っている類は無効だって」
『……なっ!? お、弁護士まで巻き込んだのか!?』
夫の声が、恐怖で裏返った。
『正気かよ! 夫婦の話しいで済むことを、なんでわざわざ事にするんだ! 俺はおの夫だぞ! おのためにやってやってるのに……』
「私のために?」
私は乾いた笑いを漏らした。
「の午、私は病院で組織検査を受けていた。あの激痛ので耐えていたに、あなた、相澤真理子とあの協議録を作っていたわね」
瞬の沈黙。 話の向こうの夫が、息を止めたのが分かった。
「私がんだら、あの女と緒に旅館をやるつもりだったの?」
数秒の空の、夫のからたのは、き直ったような酷な声だった。
『……おは、いつまで俺を信用しないつもりだ?』
「信用?」
『俺はこの旅館に尽くしてきた! なのに、おはいつまで経っても俺を「雇われ」扱いだ! 代表の子も譲らない、株も渡さない! おが倒れた今ですら、俺に経営を任せようとしない!』
鳴り散らす夫の声が、病の壁に反響する。
『俺が信用できないっていうなら、もういい! だがな、相澤さんの会社とはもう話がついてるんだ! 今さら引き返せるとうなよ!』
ガチャリ、と通話が乱暴に切られた。
の奥で、激しい鳴りが止まらない。
尽くしてきた。 その言葉の裏に隠されていたのは、私への謝でも旅館への着でもない。 ただの、卑屈な劣等と、底なしの支配欲だった。
「お姉ちゃん、丈夫!?」
由美が私の体を抱きとめた。 シーツを握りしめる私の指先は、りと屈辱でく引きつっていた。
信用しないのではない。 信用していたからこそ、、営業のすべてを任せてきたのだ。 その信頼を、私の命の危に乗じて踏みにじったのは、あの男のほうだ。
「由美……芳さんに連絡して」
「え? 何を?」
「相澤真理子の会社が、これまで見荘に送りつけてきた販促資料やメールの履歴……全部、私の病に持ってきてもらうように頼んで」
「お姉ちゃん、まだ術目だよ? 今は休まなきゃ……」
「休んでる暇なんてない」
私はベッドの柵をく握り締め、体をしだけ起こした。 傷が焼けつくように痛む。 額から脂汗が滲みる。
「あのが、いつから、どこまで計画していたのか……全部、のに晒してやるの」
翌、由美が旅館の事務所から回収してきたクリアファイルには、驚くべき資料が眠っていた。
見荘の予約管理部宛てに、相澤真理子の会社『A-Hospitality』から送られてきていた、来季のマーケティング提案。 そして、旅報サイトに掲載予定だったという、未公のプレスリリース原稿。
そこには、目を疑うような見しが躍っていた。