"「お母さんのところに行きたい」9年後に届いた娘の声" 第3話
そしてつ目は、のひらに収まるほどの、のさな械だった。
角の塗装が剥げ、液晶画面に細かな傷が無数についた、古い型のICレコーダー。 もう何もに産が終しているはずの、旧式の録音だった。
私はまず、テーブルのに置かれた万円札を見つめた。 万円のうち、万円が戻ってきた。
どういうことなのか、が追いつかない。 混乱したまま、折り畳まれたレポート用をいた。
誠さんの、殴りきのような文字が目にび込んできた。
『真紀さん。 あの夜は、本当にすみませんでした。 いただいたおのうち、万円だけ使わせていただきました。 を洗ってやり直すための、靴と、当面の費に使いました。 残りの万円はお返しします。
そして、この録音を同封します。 これは、にあなたに渡さなければならなかったものです。 ずっと、兄貴に止めされていました。 持っていること自体が恐ろしくて、何度も捨てようとしました。 でも、捨てられませんでした。
真紀さん、度だけでいい。 再ボタンを押してください。 あなたがっているは、全部、兄貴と俺が作った嘘です』
指先が凍りついたようにかなくなった。
全部、嘘? 何を言っているのか。 婚届にかれた文字も、調の記録も、歳の結から届いたあのたいも、現実にしていたはずだ。
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私は震えるで、の録音を拾いげた。 脇にある源スイッチをスライドさせる。
液晶画面にかすかにオレンジのが灯り、池の残量表示が々しく点滅した。 『FILE 01 2015/11/14』
の付。 私と修司の婚調が、最も沼化していた期の付だった。
呼吸が浅くなる。喉の奥がカラカラに乾いて、唾をみ込むことすらできない。
側面にある、すり減った再ボタンに親指をかけた。 カチリ、といプラスチックの音が響く。
「……ッ」
スピーカーから流れてきたのは、サーという激しいホワイトノイズだった。 の音。エンジンのい唸り声。 どこかのをる内の音だった。
数秒の沈黙の、さくをすする音が聞こえた。
『……結ちゃん、落ち着いたか』
録音から聞こえてきたのは、今よりずっと若く、張りのある誠さんの声だった。
『お母さんに言いたいことあるなら、これに吹き込みな。俺が預かって、絶対にお母さんに届けてやるから』
『……うん』
息を呑んだ。 その声を聞いた瞬、私の全の血液が逆流した。
結の声だった。 まだ声変わりも仕切っていない、柔らかくて、頼りなくて、私が毎元で聞いていた、歳の娘の声。
『お母さん……』
スピーカーから、震える女の息遣いが漏れる。
『お母さん、わたし、お母さんのところにきたい……っ』
「え……?」
私のから、けない掠れ声が漏れた。
『お母さん、わたし、本当はお父さんと暮らしたくない。 お母さんと緒に、京のアパートにきたいの。 でも、お父さんが……お父さんが毎泣くの。 結までていったら、俺はもうぬしかないって。おはお父さんを見捨てるのかって……』
嗚咽が混じり、声が途切れ途切れになる。
『お母さん、わたし、どうしたらいいの。 お母さんが迎えに来てくれたら、わたし、全部捨てて逃げるから。 お願いだから、迎えに来て……お母さ――』
プツリ、と自然な子音が鳴り、録音が途絶えた。
静寂が、部を埋め尽くした。 計の秒針の音すら聞こえない。
から滑り落ちた録音が、フローリングのに乾いた音をてて落ちた。
「……嘘」
膝の力が抜け、私はそのに崩れ落ちた。
あの子は、選んでいなかった。 父親と暮らすことを、友達とれたくないからと望んだわけではなかった。
『結は兄貴と暮らしたいって言ってるんだ。もう諦めたらどうですか』
あのの誠さんの言葉が、脳内で激しく反響する。 あれは、結の志などではなかった。
あの子は、ので泣き叫びながら、私に助けを求めていたのだ。 父親の「ぬ」という脅迫に怯え、母親を裏切る罪悪に押し潰されながら、私にを伸ばしていたのだ。
私は、に突っ伏したまま、両でを抱え込んだ。
「あぁぁっ……!」
喉の奥から、言葉にならない叫びが漏れた。
涙が溢れてを濡らす。
私はあの子を信じなかった。