"私を笑った義母が、帰り際に「結婚しないで」と手紙を残した" 第6話
女なんて、結婚して子供ができれば逃げられないんだから』
の奥で、キーンという属音が鳴り響いた。
カフェのジャズも、器の触れう音も、すべてがくへ消えっていく。
『母さんができたんだから、あのにもできる』
あの、ので直が私に言い放った言葉。 『母さんだって、ずっとしてるんだから』
あれは、単なる愚痴でも、慰めでもなかった。 直ので、千鶴さんが耐え忍んできた屈辱と犠牲は、「妻というき物に当然課すべきノルマ」として処理されていたのだ。
私のでは「美穂の仕事を尊敬している」「事は分担しよう」と微笑みながら。 裏では、実のたちに対して、私をしい犠牲者として差しす約束を交わしていた。
「あの子……さい頃は、泣いていた私を台所まで見に来てくれたんです」
千鶴さんは震える指先で涙を拭った。
「『きくなったら、僕が母さんを助ける』『こんな、よう』って。そう言ってくれたあの子が……いつのにか、父親や義父と全く同じ顔をして笑うようになっていた。自分が支配する番を、虎眈々と待っていたんです」
めきったアイスコーヒーのグラスに、結した滴がツーツーと垂れ落ちていく。
「私はね、美穂さん。自分が耐えてきたを、あの子のから『できて当然のこと』として肯定された……目のが真っ暗になりました。
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私が耐えてきたのは、息子に同じ獄を再産させるためじゃない」
千鶴さんはをげた。
「あの子は変わりません。あので、あの男たちの背を見て育ったんですから。あなたがどれだけ話しっても、無駄です。結婚した瞬、堀を埋められて、逃げられなくなります」
元のグラスを握りしめた。 指先がたく張り、ガラスが割れそうなほど力がこもる。
千鶴さんの言葉のすべてが、直のこれまでの言と残酷なほど本の線で繋がっていく。 なぜ老の同居の話題をいつも濁していたのか。 なぜ「京都で暮らす」と言いながら、更のない定期借ばかりを勧めてきたのか。
(全部、最初から騙すつもりだったんだ)
りで胃の腑が焼き切れそうだった。 だが、その炎の底から、徹な理性が急速にをもたげてくる。
私は顔をげた。
「お義母さん」
「……はい」
「をくれたこと、そして今、本当のことを話してくれたことには謝します」
千鶴さんがすがりつくように私を見た。 だが、私はその線をややかに受け止めた。
「でも、お義母さんが私を傷つけた事実は消えません。そして、私がどうするかは、私が自分で決めます」
千鶴さんは息を呑み、それから力なく頷いた。
「……ええ。分かっています」
「直には、まだのことは言いません。直接、あののから確かめます」
喫茶をると、条通の湿ったが頬を打った。 空はどんよりとした鉛で、今にもがりしそうだった。
そので事務所へ戻ると、私はデスクの引きしから冊のノートを取りした。
ペンを握り、のページに黒いインクでき殴る。
、居:京都内(直の実への転居は将来にわたっても切わない) 、職業:瀬美穂の事務所経営を継続し、事業縮・廃業は求めない 、事:完全折半 、親族事への参加:盆・正の回のみ 、介護:将来な親族の介護は、部の介護保険・施設利用を原則とし、美穂個への無償労働は求しない
文字にするたび、指先が微かに震えた。 これらは、婚約する、直と何度も「そうだね」「当たりだよ」と笑いいながら確認してきたはずの事項だった。
約束のまま濁され、あの男の都のいいようにき換えられようとしていた常の輪郭。
スマホをに取り、式の担当ウェディングプランナーへ話をかけた。
『はい、ブライダルサロンでございます』
「お世話になっております。瀬です。来週曜に予定しておりました、挙式費用のの振り込みですが……」
喉の奥に力を込める。
「諸事により、続きを旦保留にしていただけますか」
『えっ……保留、ですか? ですが、期を過ぎますと規約に基づき延期数料が——』
「承しています。そのペナルティが発する能性も含めて、旦止めてください。