みかん小説
本棚

"初婚のはずの夫、新婚のベッドの奥に4年前の結婚写真" 第13話

歯の根がガチガチと音をてる。 胃の底に溜まった鉛のような気が、をせりがってくる。

無識だった。 私はに両膝をつき、スマートフォンのライトを点けて、ホテルのベッドのを覗き込んでいた。

本の細いスチール脚の向こうには、埃ひとつない濃紺のカーペットが広がっているだけだった。 隠された箱も、の指輪も、誰かの結婚写真もない。

「……何やってるんだろう、私」

にをついたまま、かすれた声が漏れた。 けれど、覗かずにはいられなかった。 半、信じ切っていた寝ので、別の女の残像を踏みつけながら眠らされていたという事実が、私の体の奥くに毒のように染み付いていた。

ベッドにいがり、毛布をから被った。 あのの音も、嘘を塗り固めた甘い囁きも聞こえない。 え切ったシーツので、私は朝が来るのをじっと待った。

翌朝のちょうど、私は由紀弁護士の事務所の扉を押した。

「よく決断されましたね、美咲さん」 先は温かいほうじ茶を私のに差しし、際よく類の束をえた。

「昨夜、お話しした通りです。本付で、夫側へ受任通と警告を内容証郵便で発送します。内容は点。別居の通告、リフォーム資および居購入資への資拒絶、そして今の連絡をすべて当事務所に本化すること。

広告

直接の接触や職への押しかけは切禁じます」

「……あのは、納得しないといます」

「納得するかどうかは問題ではありません。法な境界線を引くことがです」 先の差しは、迷いなく澄んでいた。 「婚姻費用の分担請求も同にいます。活費をし渋っていたのは向こうですからね。それと、澤真由さんからも今朝、メールでご連絡をいただきました」

「真由さんから……?」

「『美咲さんが無事に退されたならしました。健太に対しては、予定通り来末の契約満にわせて渡しの制執続きを粛々とめます』とのことです。真由さんはご自の権利を主張しているだけ。美咲さんがそこに慮や罪悪を抱く必は微もありません」

「はい」 胸のつかえが、ほんのしだけ軽くなった。 真由さんは健太の元妻としてではなく、自分の資産を守るの自した女性としていている。 私もまた、そうあらねばならなかった。

午に社したオフィスでは、何事もなかったかのようにクライアントからのメールがび交い、話が鳴り響いていた。 デスクに座り、パソコンの画面に並ぶキャンペーンの予算表に目をらせる。

「藤澤さん、この媒体の掲載費、先方の提示額とズレてますよね?」 輩が持ってきた見積を指先でなぞる。

「ええ。消費税の計算区分が違うわ。戻して再提させて」

判断できる。数字も、状況も、全部見えている。 あの部で「おは世をらない」「僕に任せておけばいい」と刷り込まれ、じわじわと削り取られていた自分の覚が、確かな応えを取り戻していくのが分かった。

お昼休み、デスクのに置いたスマートフォンがけたたましく震えた。 画面には、着信拒否に指定したはずの番号からではなく、「非通」の文字。

迷った末に通話ボタンを押した。

『美咲! お、何考えてるんだよ!』

健太の声が、受話器から鼓膜を突き破らんばかりに響いた。 公衆話からかけてきているらしく、周囲の雑踏の音が混ざっている。

『弁護士から類が届いたぞ! 資拒絶? 接触禁止? 冗談だろ! 夫婦の話しいを拒否して、にに入らせるなんて常識がないにも程がある!』

「先の面を読んだなら、私に直接話してこないで」

『待てよ! 聞いてくれ! 俺は本当に目黒のマンションの付を払わなきゃいけないんだ! もう仮申し込みを入れてるんだよ! 来週までに百万円が入らないと、俺の信用に傷がつく! お、夫のキャリアを潰す気か!?』

夫のキャリア。 この期に及んで、まだ私の百万円を自分ののように計算している。

「それは、あなたが自分で蒔いた種でしょう」

私の声は、氷のようにえていた。 「私のおは、私のものです。あなたの見栄や嘘の始末のために差しす義理は、円もありません」

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: