"顔合わせの個室で、相手の母親は私の過去に怯えていた" 第11話
さすがは検事だ、と私はので苦笑した。 何気ない常の記憶から、正確に点と点を結びつけていく。
「梨」
私は娘の目をまっすぐに見つめ返した。
「私が過に請け負った業務については、相が誰であれ、守秘義務があるの。あなたにも、直さんにも話すことはできないわ。それは、私の仕事の絶対のルールよ」
「お母さん!」
「ただね」
私は直さんへと線を移した。
「直さん。お母様が何を恐れて、なぜ私を排除しようとしているのか……その理由は、私にはおおよそ見当がついているわ」
直さんが目を見いた。
「見当が……ついてるんですか?」
「ええ。でも、それを私のからあなたたちに暴して、庭を壊すような真似はしたくない。それは私の領分じゃないし、何より、あなたたちの結婚を争いの具にしたくないから」
私はのを、それぞれ包み込むようにねた。
「顔わせの席は、予定通りいましょう」
「お母さん、本気なの!?」
梨がを乗りした。
「あんな席にたら、お母さんが方に侮辱されるだけだよ! 直さんのお母様は、最初からお母さんを傷つける目で来るのに!」
「逃げたら、相のう壺よ」
私は微笑んだ。 怯えも、りも、もう私の胸のにはなかった。 あるのは、徹な計算と、決して揺るがない覚悟だけだ。
「侮辱されたって、痛くも痒くもないわ。
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私のに、恥じることなんて何つないのだから。……それにね、梨。逃げ隠れしなければならないのは、私じゃないのよ」
私の静かな声に、は息を呑んだ。
本当に怯えているのは誰か。 本当に暴かれることを恐れているのは誰なのか。
その答えわせをする所は、逃げした先ではなく、あの料亭の席でなければならないのだ。
決戦の々。 空はれ渡っていたが、の訪れを告げるたい枯らしが吹き荒れていた。
午8。 私は事務所で、翌週分の元帳のバックアップ作業をっていた。 キーボードを叩く音だけが、静寂を満たしている。
その、オフィスの黒話が鳴った。
ナンバーディスプレイには、『非通』の文字。
私は作業のを止め、呼吸をつしてから、受話器を持ちげた。
「はい、青会計事務です」
受話器の向こうから、苦しい擦れの音と、く掠れた男性の呼吸が聞こえてきた。 玲子のようなヒステリックな気配はない。 く、慎で、どこか疲れ切ったの男の声。
『……夜分に恐れ入ります。青里美さんの事務所でよろしいでしょうか』
背筋が、すっと伸びた。
「ええ、青ですが。どちら様でしょうか」
数秒の沈黙の、男性は名乗った。
『……黒田正彦と申します。直の、父です』
直さんの、父親。 黒田メディカル・システムズの代表取締役。
私の臓が、静かに鼓の速度をげた。 玲子ではなく、正彦本が、息子の越しに、しかも非通で直接話をかけてきたのだ。
「……黒田社でいらっしゃいますか。直さんからお話は伺っております。このようなに、どういったご用件でしょうか」
私が淡々と応じると、話の向こうで正彦さんがさく息を呑む気配がした。
『直から、私の番号を聞いたわけではないのですね』
「はい。じげませんでした」
『……そうでしたか』
正彦さんの声には、玲子のような敵や見すような響きは微もなかった。 あるのは、い憂慮と、何かを確認しようとする張り詰めた緊張だった。
『青さん。突然このような躾なお話をお許しください。内が……直や梨さんに対して、変失礼な振るいをねていると聞き及んでおります。夫として、くお詫び申しげます』
「いえ……」
『内は、梨さんのお父様の件で々と申してているようですが……私が今夜お話いたしましたのは、そのことではありません』
正彦さんは言葉を切り、慎に言葉を選びながら続けた。
『単刀直入にお伺いします。……青さんは、、弊社の帳簿の精査に関わられたことがおありですね?』
空気が、張り詰めた。
やはり、このも気づいていたのか。 いや、玲子から聞いたのではない。
正彦自のルートで、私の名に辿り着いたのだ。
私は呼吸をえ、受話器をに押し当てた。
「黒田社。変申しげにくいのですが、私が過に受託した案件の詳細につきましては、契約の守秘義務がございます。