"顔合わせの個室で、相手の母親は私の過去に怯えていた" 第3話
私のにおける、唯にして最の誇りだった。
湯で淹れたほうじ茶をすと、梨は両で湯呑みを包み込み、しだけ改まった表で私を見げた。
「お母さん。……直さんから、正式にプロポーズされたよ」
胸の奥が、じんわりと温かくなる。 元が自然とほころぶのを止められなかった。
「そう……。本当におめでとう、梨」
「ありがとう」
梨の未婚夫である黒田直さんは、33歳の弁護士だ。 梨が司法修習を終えてもない頃、共通のを通じてりい、2ほど穏やかな交際を続けてきた。 何度か事務所にも顔をしてくれたことがある。 物腰が柔らかく、私の仕事を「で素らしいですね」と素直に尊してくれる青だった。 梨が激務で疲れているも、決して自分の都を押し付けず、静かに見守ってくれる優しさがあった。
「直さんなら、ね。梨の仕事の変さも、誰より理解してくれるでしょうし」
「うん。仕事は絶対に続けること、事はきっちり分担すること。そのつを条件にしたら、笑って『当然だよ』って言ってくれた」
梨は照れくさそうに笑ったが、ふと、その瞳にわずかなりが差したのを私は見逃さなかった。
「……何か、気になることでもあるの?」
私が尋ねると、娘は湯呑みの縁を見つめたまま、言葉を選ぶように唇をかした。
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「直さん自には、何の問題もないの。ただね……彼のお母様が、し気になって」
「お母様?」
「うん。直さんのお父様は、医療器を扱う会社を経営していて、元ではそれなりに名が通っているらしいのね。だからお母様は、すごく『柄』とか『世体』を気にする方みたいで」
梨はしだけ眉をひそめた。
「来週、両の顔わせをしたいって話になったんだけど、お母様が『事に向こうのご庭の詳しい事を教えてほしい』って、直さんに何度も言っているらしいの」
「詳しい事……」
「するに、うちの父親のこと」
内の空気が、ふっと止まった。
私は24歳の、婚姻届をさないまま梨を産んだ。 相の男性とは、妊娠が分かった直に別れた。 彼が自分の将来を選び、私と子どもを捨てるを選んだのだと、当の私は信じ込んでいた。 親戚からろ指を指され、世のたい目に晒されながらも、私はで梨を育てげると決めた。 父親が誰であるかなど、梨がになるまで度もかしたことはない。 娘もまた、物ついてからは父親のを詮索することなく、私の背だけを見て育ってくれた。
「直さんには、私が未婚の母であることは伝えてあるのよね?」
「もちろん。最初から全部話してある。直さんは『そんなこと僕たちの結婚に何の関係もない』って言ってくれた。
でも、お母様は納得していないみたいで……『父親の素性も分からないようなと縁を結ぶのは困る』って」
梨は顔をげ、まっすぐに私の目を見た。
「お母さん。もし向こうのお母様が失礼なことを言ってきたら、無理してをげなくていいからね。私は、お母さんがどれだけのいで私を育ててくれたかってる。誰にも、お母さんを侮辱させない」
娘のい差しに、胸の奥がくなる。 私はちがり、梨の細い肩にそっとを置いた。
「丈夫よ。私の仕事のことや、これまでどうやって暮らしてきたかなら、いくらでも胸を張って話せるわ。でもね、若い頃のプライベートを品定めされる筋いはない。そこはきちんと、の線引きとして守るつもりよ」
「うん……」
そのは、ただの「世体を気にする古い価値観の母親」なのだろうとっていた。 名にありがちな、柄への執着。 私たちが毅然とした態度を崩さなければ、やがて理解してくれるはずだと、どこかで楽観していたのだ。
だが、その甘い見通しは、わずか数に届いた本の話で打ち砕かれることになる。
週けの午、事務所の黒い固定話が鳴った。
受話器を取ると、聞こえてきたのは直さんのひどくい詰めたような声だった。
「青さん、お仕事に突然すみません。今、しだけおよろしいでしょうか」
「直さん? ええ、丈夫ですよ。どうかしたの?」
受話器の向こうで、直さんがい溜め息をみ込む気配がした。