"私を大学へ通わせた義母と、二十年前の750万円" 第15話
先ほどからのあなたの発言は、すべて録音してあります」
スマートフォンの画面を男に見せる。 音声波形が、今も微かに揺れていた。
「な……っ!」
「の朝番で、顧問弁護士からあなたの会社へ受任通と警告を内容証郵便で送付します。今、私や母に対する直接の接触、話、の切を禁止します。もし度でも破られた、即座に警察へ通報し、民事の損害賠償請求もいます」
社会政策を専とする准教授としての、切のを排した、徹な事務通告。 それは、論や族のにすがりついてきてきたこの男にとって、最も恐ろしい「制度の鉄板」だった。
男の顔から、みるみる赤みが引いていった。 唇が青ざめ、額からタラタラとたい脂汗が流れ落ちる。
「お、おい……彩子、幸子さん……内だろうが……。ちょっと話を聞いてくれれば……」
「お引き取りください」
母が、ややかに言い放った。
「度と、私たちのに現れないで」
男はしばらくの、信じられないものを見るように私たちを見つめていた。 だが、私がスマートフォンをに当て、「110番します」と指をかした瞬、男の虚勢は完全に崩壊した。
「く、狂ってやがる……! 覚えてろよ!」
負け犬特の、掠れた捨て台を吐き捨てると、男はよろめく取りで鉄骨階段へと逃げしていった。 ドタドタと無様に階段を駆けりる音が、夜のに吸い込まれていく。
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やがて、くでのドアが乱暴に閉まり、エンジンの回転音がざかっていった。
廊に、完全な静寂が戻った。
たい夜が吹き抜け、母のエプロンの裾を揺らしている。 隣の部のが、息を殺して様子を伺っている気配がした。
「……お母さん」
私が声をかけると、母はゆっくりと息を吐きし、張り詰めていた肩の力をふっと抜いた。
鉄のドアを閉め、鍵を回し、チェーンを掛ける。 カチャリ、という属音が、今度は私たちを守る確かな境界線の音として響いた。
母は玄関の壁に背を預け、ずるずるとそのに座り込んだ。 が笑っているようだった。 両を見つめると、指先が微かに震えている。
「……私、偉そうなこと言っちゃったわね」
母が、ぽつりと言った。
私は母の隣に腰をろし、その細い肩を抱きしめた。
「ううん。すごく、かっこよかったよ」
私の言葉に、母はふっと息を漏らして笑った。 く緒にいて、見たこともないような、の底から肩の荷をろした、れやかな笑顔だった。
「あーあ、が震えちゃった。臓がバクバク言ってるわ」
「私もだよ。、ガクガクしてる」
私たちは顔を見わせ、どちらからともなくさく吹きした。 暗い玄関ので、の笑い声がなりう。
もの、母のを縛り付けていた霊は、ようやく消えったのだ。
父の名誉という名の呪縛も、血縁という名の暴力も、もう度とこのを傷つけることはできない。
「お母さん」
「ん?」
「お腹、空いちゃったね」
「そうね。根、めちゃったかしら」
母が私のにつかまって、ゆっくりとちがった。 膝はまだ痛むはずなのに、その取りは、階段をがってきたよりもずっと力かった。
台所へ戻る母のろ姿を見つめながら、私はので誓っていた。
このに、を買おう。 恩を返すためでも、罪悪を埋めるためでもない。 このが、自分ので、自分のを堂々ときていくための所を。 今度こそ、で緒に選ぶのだ。
翌朝、学の法学部棟にある顧問弁護士のオフィスへ向かった。
提した録音データと、の契約の写し、そして昨夜作成した経緯報告。 担当の弁護士は鏡の縁を押しげ、無駄のないつきで類を揃えた。
「受任通と警告は、本付で相方の会社および自宅へ内容証郵便で発送します。今の接触はすべて当職を窓とすること、これに違反して直接の面会や架、つきまとい為があったは直ちに警察へ通報し、民事保全続きを取る旨を記します」
「……の750万円については、どう扱えばいいでしょうか」
「法には、相方が効を主張している以、民事訴訟で回収を図るのは極めて困難です。
ですが、昨夜の録音ので相方は債務のそのものを認めています。