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"私を大学へ通わせた義母と、二十年前の750万円" 第3話

「……なんでもない。古い領収がたくさん入ってたから、どれを捨てていいのか見てただけ」

私は努めて平然を装い、震えそうになる指先でその受取を契約のに滑り込ませた。 母に悟られてはならない。 直がそう告げていた。 、にみを見せず、恩を着せることも着せられることも極度に嫌ってきた母が、もこの類を押入れの奥に封印してきたのだ。 今ここで騒ぎてれば、母は度とをかなくなってしまう。

「古いものは全部捨てていいのよ。税の類だって、経てば関係ないんでしょう?」

母は元の画用をまとめながら、何気ない調子で言った。 その横顔には、先ほどまで見せていた微かな警戒は消え、いつもの穏やかな、だがどこか儀な笑みが戻っていた。

このは、いつもそうだ。 昔から、私に対して絶対に「親の顔」を押し付けてこなかった。

父が母と再婚したのは、私が歳のだった。 実の母を病気でくして。 父ときりの活にようやく慣れ、事の真似事を覚え始めたな期に、突然やってきた「しい母親」。 当の私にとって、それは自分の聖域を侵しにきた侵入者以の何者でもなかった。

初めて顔をわせた、私は父の制止を振り切り、母に向かって言い放ったのだ。

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「お母さんとは呼ばないから。私のお母さんは、んだお母さんだけだから」

子ども特の、残酷で剥きしの敵。 父は真っ青になって私を鳴りつけようとしたが、母はそれをで制した。 エプロンのポケットにを入れ、困ったように眉をげて、こう言ったのだ。

「うん、それでいいよ。無理に呼ぶことない。……困っただけ、呼んでくれたらいいから」

りもせず、しそうな顔も作らず、ただ淡々と事実を受け入れるような声だった。 それ以来、母は私の領域に度もで踏み込んでこなかった。 私の部にある実母の写真や形見のアクセサリーには絶対に触れず、引きしをけることもなかった。 事の好みは黙って観察してわせ、私が邪を引いた夜は、部の隅の子に座って夜通し氷嚢を取り替えてくれた。 だが、翌朝私が目を覚ますと、「、がったね。おかゆ置いておくから」とだけ言い残し、さっさと自分のパートへかけていくのだ。

母の距は、常に完璧だった。 過保護でもなく、無関でもない。 「困っただけ、そこにいる」。 その抑制された優しさに、期の尖りきった私のは、何ものをかけてしずつ解きほぐされていった。

だが、父の親戚筋――特に弟である叔父の隆志は、そんな母のが気にわなかったらしい。

「兄貴も物好きだな。子連れの男のところに妻に入るなんて、何か魂胆があるんじゃないか」 「どうせ兄貴の会社が順調だから、玉の輿に乗るつもりだったんだろ」

親族の集まりがあるたび、叔父は酒の匂いをさせながら、母に聞こえるような声で軽を叩いていた。 母はその当、総病院の医事課で正職員として働いており、経済に父に依しているわけでは決してなかった。 それでも、叔父の無礼な言葉に対して度も反論せず、ただ静かにお茶を淹れ直していた。

そんな平穏が破られたのは、私が、歳のだった。

父が、筋梗塞で突然倒れたのだ。 まで普通に会社へき、「彩子、模試の結果はどうだった」と笑っていた父が、翌の夜には集治療のベッドでたくなっていた。

通夜と葬儀の慌ただしさので、親戚たちの線は酷だった。

「籍を入れてまだだろ」 「子どももいないし、血のつながりもない。兄貴の遺産だけもらって、すぐにてくんじゃないか」

控の襖の向こうから漏れ聞こえてくるない囁きを、私はを塞ぎながら聞いていた。 私自、恐怖で元が崩れそうだった。 父がいなくなれば、私はこので完全にになってしまう。 を卒業したら、学学など諦めて就職しなければならない。

このも、きっと私を置いてていくに違いない。

だが、葬儀が終わって誰もいなくなった暗いリビングで、母は喪のまま私に向き直った。

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