"私を大学へ通わせた義母と、二十年前の750万円" 第2話
母は湯呑みを茶ぶ台に戻すと、線を畳の目に落とした。
「らなくていいのよ。もうものことなんだから。あのは、売って、全部綺麗に片付いたんだから」
それきり、母はを噤んでしまった。 いつもの頑なな態度だった。 何かい事があるというよりは、過の苦労話を娘に聞かせたくないという、母なりの防反応に見えた。
「わかった。無理に話さなくていいよ。ただ、押入れのの段にある古い類の箱、くてろせないって言ってたでしょう。それだけでも片付けよう」
私がちがると、母はさくため息をつき、「じゃあ、伝ってもらおうかしら」とい腰をげた。
押入れの袋から引きずりろした段ボール箱は、埃をかぶって底が抜けそうになっていた。 には、私が学のに使っていたスケッチブックや、父の古い賀状の束、そしてあせた茶封筒が何枚も無造作に詰め込まれていた。
「懐かしいわねぇ。これ、あなたが学の美術の授業で描いた絵よ」
母が懐かしそうに画用を広げている横で、私は箱の底に沈んでいたみのあるビニール製の提げ袋を引き抜いた。
表には、マジックで『類』とだけかれている。 チャックをけると、からてきたのは、何通もの公な通と、産会社のロゴが入った分い冊子だった。
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『産売買契約控』 『売買代精算』
母が昔、自分の両親から相続したという、寝川の古い戸建て宅の売却類だった。 父が急した翌、私が学のの付が記されている。
私は息を潜めて、精算の最終ページをめくった。
売却額、1,480万円。 そこから仲介数料、抵当権抹消登記費用、建物の解体更渡し費用などを差し引いた『差引取額』の欄。
そこには、はっきりと印字されていた。
【12,150,000円】
千百万円。
私は喉の奥が乾くのを覚えた。 これだ。 このおだ。
歳で父を失い、途方に暮れていた私を、母はこのおで学にかせてくれたのだ。 「おのことはが考えるから、あなたは勉しなさい」 そう言って背を押してくれた母の言葉の正体は、自分の両親が遺してくれた、たったつの財産を削り取ったものだったのだ。
やっぱり、母は自分のすべてを犠牲にして私を育ててくれた。 そのみに胸が締めつけられ、目がくなりかけた、そのだった。
精算のすぐろに、枚の細いがクリップで留められているのが目に入った。
の窓で発される、振込受取。 の印字はれかけていたが、太いゴシック体の文字ははっきりと読み取れた。
振込額:7,500,000円。 依頼:幸子。
振込は、産の売却代が母の座に着した、わずか。
百万円。 売却代の半分以という、途方もない額。
私は無識のうちに、受取の欄に線を滑らせた。 私の学の学費振込座ではなかった。 学資保険の積座でも、母自の定期預座でもない。
そこに印字されていた文字を見た瞬、私の考は完全に凍りついた。
『タカムラセツビカンリ(カ』 振込先:設備管理株式会社 代表取締役:隆志
……は?
が、まったく理解できなかった。
設備管理。 それは、くなった私の父・正雄が、弟である叔父の隆志と緒にちげ、経営していたさな設備メンテナンス会社だった。
どうして?
ので、警報のような鋭い音が鳴り響く。 母が実を売ったおは、私の学費のために使われたはずだ。 私を学院までかせ、自由なく研究に打ち込ませるために、を切るいで捻したおだったはずだ。
なのに、なぜその半である百万ものが、父の、叔父の会社へと振り込まれているのか。
「……彩子? どうしたの、そんな怖い顔して」
背から母の声がした。 私はとっさに、その振込用を指先で覆い隠していた。
臓が、の奥で激しく脈打っていた。
のの片が、じっとりと汗ばんでいくのが分かった。 れかけたインクの文字が、私のっている過の輪郭を音をてて歪めていく。
設備管理株式会社。 叔父である隆志の名。 そして、百万円という途方もない数字。