"頭からビール、五十人が平伏す" 第8話
その線の先、きな窓を背にして、の柄な男が、両をスラックスのポケットに入れたまま、の景を静かに見ろしていた。
竜会の頂点につ男、造だった。
は戸にち、広文の丸まった背越しに、静かに声をかけた。
「し、てきます。……誰も、つけないでください」
窓辺の造は、振り返ることもなく、く落ち着いた声でく応じた。
「ああ」
き先を告げることもなく、はたったでホテルをにした。
初のたいが吹き抜ける駅通り。
雑居ビルがち並ぶ裏に、煤けたの階建てビルが建っていた。その階、鉄の扉にペンキで『丸熊商事』とかれた事務所のに、はった。
ためらうことなく、い鉄扉を押しける。
ギィィと軋む音とともに広がったのは、タバコのヤニで黄く変した壁と、無造作に置かれたスチール机だった。壁の黒板には、チョークで債務者の名と返済期が殴りきされている。
部の奥、事務机の角に腰掛け、のスーツを着た勢子が腕を組んで待ち構えていた。
その元のたいのには、あの黒い鞄を胸に抱きしめた君代が、膝を折って座らされていた。
「君代ちゃん」
が名を呼ぶと、君代はびくりと肩を震わせ、の顔を見げるなり、粒の涙を零した。
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部の隅の擦り切れた革張りソファには、昨夜の同窓会にいた鏡の男をはじめとする、の同級が青ざめた顔でを縮めていた。
バタンッ――!
の背で、い鉄扉が乱暴に閉ざされた。
見れば、熊切組の若い衆が、腕を組んで戸を塞ぐように仁王ちしていた。
勢子は机のからを見ろし、の端を吊りげた。
「本当に、で来たのね。……うちのなら、朝からホテルで本にをげにってるわよ。だから今はここ、私の好きにさせてもらうから」
は歩も引かず、静かに問いかけた。
「件は何ですか」
勢子は答えず、ソファに座るの同級たちへと顎をしゃくった。
「ねえ、あんたたち。延滞利息の遅れ賃、今まで誰に払ってたんだっけ?」
鏡の男がビクッと肩をねさせ、を見つめたまま、絞りすような声で答えた。
「……き、君代に、渡しました」
君代の細い指が、胸の鞄の具にかかり、そして無力そうにれた。
勢子は事務机の板を、パンッ! と平で激しく叩いた。
「聞いた!? 私はね、君代から円も受け取ってないのよ! 取りて係の君代が、全部自分の懐に入れてネコババしてたってわけ! 派な業務横領よ!」
は線を逸らさず、ソファのへと静かに歩みた。
鏡の男のにつと、その目を真っ直ぐに見据えた。
「その遅れ賃を払えと言ったのは、誰ですか?」
男の息が、喉の奥で詰まった。
同級の線が、示しわせたかのように、揃って勢子の方へと向けられた。戸を塞いでいた若い衆たちも、気まずそうに顔を見わせる。
勢子のく塗り固めた頬に、カッと朱が差した。
「余計なこと聞いてんじゃないわよッ!」
勢子は机からびりると、のへと詰め寄った。
「あんた、本の姐さんなんでしょ!? だったら、うちのを破にしないって、本に約束させなさいよ! 破になったら、私は組の女じゃなくなるのよ! 約束しないなら、君代を今すぐ警察に突きして刑務所に送ってやるわ!」
は、取り乱す勢子を静かに見つめ返した。
「それは、私が決めることではありません」
に座り込んでいた君代が、涙で濡れた瞳でを見げ、必に首を横に振った。
(私のために、そんな約束をしないで……)
君代のの声を受け止めたは、静かに線を落とし、それから勢子へと向き直った。その声には、凛とした揺るぎない力が宿っていた。
「君代ちゃんは、そのようなことをするではありません」
勢子はでせせら笑い、机のの黒話の受話器をひったくった。
「では何とでも言えるわよ! 本当に警察を呼んでやるわ!」
勢子の赤い爪が、黒話のダイヤルの「1」
の穴にかかった。
「おい!」
勢子は戸の若い衆へと鳴りつけた。
「君代をこっちへ引きずってきなさい! 自分ので状させるのよ!」
若い衆のがにて、君代の細い腕を掴み、無理やり引き起こそうとした。