"頭からビール、五十人が平伏す" 第6話
「嘘をついたらどうなるか、分かってんだろうな」
梶原の声には、もはやりの昂ぶりすら消え失せていた。絶対な処刑の宣告に似た、底えのする静寂が宿っていた。
広文の指先が、勢子の肩に骨が砕けんばかりの力でい込んだ。
「本当のことを言えッ! 隠したら、俺もおも今夜のうちに京湾の底だぞッ!」
勢子の唇から、掠れきった、消え入りそうな声が漏れした。
「び……ビールを……から、かけました……」
広文の額とこめかみに、りと恐怖の太い青筋が何本も浮きがった。
「からかけただと……この、バカ野郎がッ!」
広文は咆哮すると同に、勢子の部を鷲掴みにし、全体をかけてへと力任せに押しげた。
ドスン、と鈍い音が響き、勢子の体は腰から真っつに折れ、額がの絨毯にく擦り付けられた。
広文もまた、その横で膝をつき、額をに擦り付けながら、震える声でに向かって叫んだ。
「申し訳ございませんッ! 姐さんッ! この愚妻の非礼、どのような落としでもつけさせます! どうか、どうかご容赦を……ッ!」
のような静寂が、広を支配した。
の極たちが平伏するその央で、のく、穏やかな声が静かに落ちた。
「私のことは、いいです」
広文が息を呑み、額をにつけたままを澄ませた。
は濡れた島紬の襟元にを触れ、静かに言葉を続けた。
広告
「熊切さん。君代ちゃんの借は、今、ここでなしにしてください」
広文はに伏したまま、喉から絞りすように答えた。
「は、はいッ! こので、直ちに棒引きにいたしますッ! 利息も元も、切切帳消しにいたしますッ!」
にを力任せに押さえつけられたまま、勢子は目玉だけをかして、け放たれた戸の方を覗き見た。
廊に群がっていた同級たちが、全員、のように青ざめ、ガタガタと震えながら部のの異様な景を見つめていた。誰として言葉を発することができず、その顔には底れぬ戦慄が張り付いていた。
「おい、偽もんじゃねえぞ……本物だ……」
戸のくにっていたの若い組員が、同級たちの無慮な線にりをわにし、ドスの利いた声で鳴りつけた。
「何ジロジロ見てやがんだ、ゴラァッ!」
組員が歩踏みそうとした、その瞬だった。
「やめな」
の凛としたが、鋭い刃のように空気を切り裂いた。
組員のが、まるで見えない壁にぶつかったかのようにピタリと止まった。
廊の同級たちがひっとい鳴をげ、蜘蛛の子を散らすように斉にずさり、壁に背を押し当てた。
梶原がので々と腰を折り、伺いをてた。
「……姐さん。表の連は、いかがいたしましょうか」
は静かに、ゆっくりと首を横に振った。
「同級です。……堅気のには、をさないでください」
「はッ」
梶原は直し、々とをげて歩引きがった。
その黒いので、に額を擦り付けていた勢子の瞳が、わずかに怪しくいた。
(……堅気のには、をすな……?)
は梶原に向かって、軽く会釈をした。
「お邪魔しました。席へ戻ってください」
はそれ以何も言わず、平伏するの男たちに背を向けると、静かに部のへと歩きした。
その凛とした背に向かって、にいつくばっていた勢子が、ずった掠れ声を投げかけた。
「み、……っ! 私、らなかったのよ……!」
の歩みは止まらなかった。
度も振り返ることはなく、濡れた島紬の裾を静かに揺らしながら、部をてった。
廊にると、壁際にへたり込むようにして、君代が黒い鞄を胸に抱きしめてち尽くしていた。
濡れそぼったの姿を見るなり、君代のきな瞳から、堰を切ったように涙が溢れした。
震えるで自らの鞄をけ、から枚のハンカチを取りす。
「みずえちゃん……これ、使って……っ!」
君代のから差しされたハンカチを、は両でそっと受け取った。
その瞬、の固く結ばれていた元が、この夜初めて、の解けのようにふっと柔らかく綻んだ。
「ありがとう、君代ちゃん」
はそれだけを優しく告げると、自分が宿泊しているの階へと続く階段を、段ずつ静かにがっていった。