"頭からビール、五十人が平伏す" 第2話
「畑君がね、うちの会社から百万円借りて、期限が過ぎても返せないのよ!」
会の端、隅のテーブルに座っていたの男――畑が、びくりと肩を震わせ、今にも消え入りそうなほどさくなって俯いた。
勢子はマイク越しに喉を鳴らして笑い、壇からの座る円卓を指差した。
「都会で随分と贅沢な暮らしをしてるらしい梅本がさ、同級のよしみで、今すぐこので保証の判を押してあげなさいよ!」
その言葉が落ちた瞬、男たちの卑た笑い声が、会のあちこちから堰を切ったように広がっていった。
「そうだそうだ! 次はぎ、同級のよしみだろ!」
「島紬が買える分なら、百万円くらい端だろ! 助けてやれよ!」
かつてのスクールカーストの序列が、数のを経て、この酒席で醜悪に再現されていた。誰もが勢子の嫌を取り、誰かが贄になるのを見て堵していた。
は、の島紬の帯のにねた両を崩さず、息を吸い込むと、静かに子を引いてちがった。絹の擦れる微かな音が、嘲笑の隙に滑り込む。
壇の勢子が、マイクを握り直して悪な笑いを浮かべた。
「何よ。おちになって、判を押す気になったわけ?」
嘲笑が再び会を包み込もうとした、そのだった。
は顎をわずかに引き、壇の勢子を真っ直ぐに見据えた。
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「勢子さん」
く、通る声だった。マイクなど通していないにもかかわらず、その澄み切った響きは、宴会の最もい隅の壁にまで、凛として届いた。
「同窓会を取りてのにするなんて、筋が通りません」
ぴたりと、会の笑い声が止まった。
まるでを浴びせられたかのように、気を帯びていた空気がすっと引いていく。誰もが息を呑み、の毅然とした横顔を見つめた。会の最奥、暗がりにある円卓の隅で、分い鏡をかけた男が無言のまま、元の割りグラスへと線を落とし、指先を張らせていた。
壇の勢子の表から、血の気が引いていくのが目にも分かった。見していたはずのに、ので公然と「筋が通らない」と正論を突きつけられたのだ。
「……何様のつもりよ」
勢子の唇が震えた。マイクを通したその声は、りと屈辱で掠れていた。
「継ぎ接ぎのくせに……何様のつもりなのよ!」
カッとなった勢子は、スタンドからマイクを力任せに引き抜くと、壇の製フロアへ叩きつけた。
ズドォォン、とい破裂音のような打撃音がスピーカーから響き渡り、列に座っていた数の女子が鳴をげてを覆った。
勢子は眉を吊りげ、目を血らせながら、壇の階段も使わずにびりた。元の絨毯をハイヒールで踏みにじり、邪魔な空き子を両で薙ぎ倒しながら、猛然との円卓へと突っ切ってきた。
ガタン、バタンと子が倒れる音が静まり返った広に連続して響く。
勢子はのわずかセンチでを止めると、荒い息がの額にかかるほど顔を突きした。
「幹事の私に、恥をかかせる気!?」
勢子の首筋に青筋が浮きている。
は瞬きつせず、その気を真正面から受け止め、静かに返した。
「恥をかかされたのは、君代ちゃんです」
のすぐ隣の席で、さく縮こまっていた君代の肩が、びくりとねた。
「調子に乗るんじゃないわよ!」
勢子の声が炸裂した。彼女のは、円卓の央に置かれていたえたビールの瓶へと伸びていた。栓のいた瓶の首を鷲掴みにすると、迷うことなくのへと振りげた。
「あっ……!」
誰かのい鳴ががった瞬、勢子は瓶を真に向けて逆さにした。
ドボドボと、え切ったの液体が、鈍い音をてての頂部へと落ちていく。
炭酸のい泡が、丁寧に撫で付けられたの黒髪を濡らし、額を伝い、睫毛を濡らし、やがて着物の襟元から胸の奥へと容赦なく流れ込んでいった。
周囲の空気が凍りついた。誰もが目を見張り、息を止めてその凄惨な景を凝していた。
だが、は両の瞼を静かに伏せただけで、を引くことも、で払うこともしなかった。元を歩もかさず、背筋を真っ直ぐに伸ばしたまま、り注ぐビールのたさに耐えていた。