みかん小説
本棚

"頭からビール、五十人が平伏す" 第1話

を帯びた宴会のざわめきを切り裂くようにして、甲い女の嘲笑が円卓のあちこちにね返っていた。

井のシャンデリアからり注ぐ黄ばんだの、数が囲む丸テーブルの向かい側で、けばけばしいのノースリーブワンピースにを包んだ女が、の匂いを振りまきながらを乗りしてきた。

熊切勢子――かつてこの方都の学で、女子徒の頂点に君臨し、気に入らない者を片っ端からいたぶり尽くしていた元番だった。派な茶髪を夜会巻きに固め、元で揺れるぶりの模造ダイヤの飾りが、くたびに障りな属音をてている。細く吊りがった眉ので、塗り固めたマスカラに縁取られた瞳が、獲物を値踏みする蛇のように細められた。

その線の先、背筋を微だにさせず座っている女――梅本へと、勢子の指先が突きつけられる。

「あら、継ぎ接ぎじゃない。随分といい着物を着てきたじゃないの」

勢子の嘲るような声に、周囲の同級たちが斉に箸を止め、面がるように線を集させた。

見ろされたは、膝の、く沈んだの本島紬の帯ので、両の指先を静かにねわせたまま、微だにしなかった。その紬は、極細の絹糸が精緻な絣模様を織り成し、の加減によって幽玄な艶を放っている。

広告

質素でありながら、目で最級の織物とれる品格が漂っていた。化粧気のないの横顔は、を越えてなお凛として澄んでおり、額のえ際から襟へと流れる黒髪が、清潔ないうなじを引きてていた。

のその静寂が、勢子の苛ちを逆撫でした。勢子はの端を醜く歪め、爪に塗った毒々しい赤を見せつけるようにして、テーブルののグラスを指の背で弾いた。

「卒で縫製勤めだったくせに、どこの男に買わせたのよ。の丈にわない贅沢なんかして、いいして恥ずかしくないわけ?」

周囲に座る昔の取り巻きたちが、待ってましたとばかりにくすくすと笑い声を漏らす。かつて勢子の嫌を損ねまいと顔を窺っていた者たちも、今は酒の勢いを借りて、を品定めするような卑しい線を向けていた。

は伏せていた睫毛をゆっくりと持ちげ、その澄んだ瞳で勢子の目を真っ向から見据えた。帯のに置かれた指先は、片の震えも見せない。喉の奥から放たれた声は、静かでありながら、卓のざわめきを芯から通って響いた。

「自分で稼いで買いました」

ただそれだけを、淡々と告げた。言い訳も、飾りてもないその言に、周囲の同級たちから、乾いた失笑がまばらに漏れした。

勢子のの頬が、屈辱に引き攣るようにピクリとねがった。

昔からそうだった。学の暗い駄箱の裏で、体育館の倉庫ので、何度取り囲んで脅しつけても、この女は決して泣き叫ばず、媚び諂いもせず、ただ静かにその澄んだ瞳で見つめ返してきたのだ。その揺るぎのない佇まいが、暴力と威圧でしか居所を作れなかった勢子には、耐え難い侮辱にえてならなかった。

「その澄ました顔、昔から本当に気に入らないのよ!」

勢子は子を蹴るような勢いでちがると、履き慣れないハイヒールを激しくに打ち鳴らし、円卓の背をすり抜けて正面の壇へと駆けがっていった。

壇の央、い布が掛けられた演台の横につと、勢子は乱暴なつきでスタンドマイクの支柱を力任せに引き寄せた。

キィィィン――。

をつんざくような鋭いハウリングが、広な宴会のスピーカーから鳴り響き、壁を震わせた。歓談に興じていた約の同級たちが、わずを塞ぎながら、斉に台のへと線を向けた。

勢子はマイクのを鷲掴みにし、荒い息を吐きながら叫んだ。

「みんな、ちょっと聞いてよ!」

会のざわめきが急速に引いていく。の線が自分に集まったのを確認すると、勢子の顔に、ねっとりとした勝ち誇った笑みが戻ってきた。彼女はノースリーブの胸元から、つ折りにされていた枚の汚れた用を取りし、見せびらかすようにく掲げた。

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: