"恩人の葬儀の裏で、夫は私の実家に値段をつけていた" 第1話
喪のジャケットを脱いだ瞬、線の匂いがふっと腔を突いた。
群馬の崎から千葉の自宅まで、各駅を乗り継いで半。 初の湿ったと、代の体に容赦なく蓄積した疲労のせいで、の裏が鉛のようにい。
には、義姉の幸恵さんが最に使っていた、し褪せたの布バッグ。 その底に沈んでいる、実の古い真鍮の鍵が、歩くたびに微かな属音をてていた。
リビングの引き戸をけると、テレビのニュース番組の音と、エアコンの乾いたが真っ先に押し寄せてきた。
夫の修は、ダイニングテーブルの端に座り、を乗りすようにしてスマートフォンの画面を指で弾いていた。 テーブルのには、コンビニの空になった弁当容器と、見慣れない分い沢のパンフレットが何冊か散らばっている。
「……ただいま」
掠れた声でそう言うと、修は画面から線をげることすらなく、く顎をしゃくった。
「おう。終わったか」
「うん。なんとか、の法と、お寺の続きまでは済ませてきたわ。あとは、しずつ片付けにかないと……」
にくなった兄の彦に続き、義姉の幸恵さんまで逝ってしまった。 兄が遺したさな薬を畳み、で静かに暮らしていた義姉が自宅で倒れているのが見つかってから、今まで。
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病院での当直勤務のを縫うようにして幹線と来線を往復し、親族や所への挨拶にをげ続けてきた。 医師としての識があるせいで、脳血を発症してから発見されるまでの経過が嫌でもに浮かんでしまい、この数週、まともに眠れていなかった。
何か温かいお茶でも淹れようと、台所へ向かって歩を踏みしただった。
修が、スマートフォンをテーブルに放りし、子の背もたれにく寄りかかった。 そして、喉の奥からさく息を吐きしながら、こう言ったのだ。
「これで、もう実に仕送りしなくて済むな」
――……は?
の奥で、何かがプツンと弾ける音がした。 がに縫い付けられたようにかなくなる。
いま、このは何と言った?
「……修さん、今、なんて言ったの?」
振り返ると、夫は悪びれる様子もなく、むしろ肩の荷がりたと言わんばかりの弛緩した表で、私を見ていた。
「だから、仕送りだよ。お、毎欠かさず振り込んでただろ。兄貴さんが病気になってからは、医療費だの何だので乗せまでしてさ。もう義姉さんもいなくなったんだから、これからはあのにおを吸い取られることもない。やっと終わったんだよ」
悪気のない、底からの本音。 その響きが、氷を直接胃袋に流し込まれたようなたさで私の全を麻痺させた。
「吸い取られる……? あなた、自分の内がくなったばかりのに、よくそんな言葉が言えるわね」
指先が微かに震え、布バッグの持ちをく握りしめる。 爪がのひらにい込む。
だが、修は眉をひそめ、げさに両を広げてみせた。
「なんだよその言いは。事実だろ? 俺は別に、おを責めてるわけじゃない。ただ、これでようやく俺たちの活にが回せるってしただけじゃないか。俺ももうだぞ? 役職定だって目のなんだ。現実を見ろよ。医者だからって、無限にが湧いてくるわけじゃないんだからさ」
「私の料からしていたおよ。あなたの活費を削って送っていたわけじゃないわ」
「夫婦の財布はつだろうが」
修の声が、段くなった。 の結婚活で、このが自分のい通りにならないに必ず使う、あの威圧なトーンだった。
「おが実に数万も送らなきゃ、その分、俺たちの老資に貯できてたんだよ。おは昔からそうやって、兄貴兄貴って娘気分が抜けないんだ。もうおは佐伯のなんだぞ?」
喉の奥がカラカラに乾いていた。 言い返そうとしても、りと絶望が気管に詰まって声にならない。
このは、兄がくなったも、義姉が息を引き取ったも、通夜に顔をして形ばかりの典をしただけだった。
「仕事がて込んでるから」「現の管理があるから」と理由をつけては、最の続きも葬の配も、すべて私ひとりに押し付けた。