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"「農家の娘」を15分で追い出した義母の誤算" 第13話

失礼いたします」

私は踵を返した。

背から、夫の「織! 頼む、捨てないでくれ!」という無様な叫びと、義母の狂ったような号泣が追いかけてきた。 けれど、私のが止まることはなかった。

廊を軋ませて歩く取りは、羽がえたように軽かった。 の呪縛が、音をてて砕け散っていく。

玄関のい引き戸をけると、の鋭い青空が広がっていた。 たいが、照った私の頬を優しく撫でていく。

をて、駅へと向かう本を歩き始めた、そのだった。

コートのポケットので、スマートフォンがく震えた。

画面を見ると、群馬の姉――幸子の名が表示されていた。

通話ボタンを押し、に当てる。

『もしもし、織?』

懐かしい、し掠れた、温かい姉の声だった。 背景から、野菜を積んだフォークリフトのエンジン音と、誰かの威勢のいい掛け声が聞こえてくる。

『あんた、埼玉のアパート引き払ったんだって? ……畑のキャベツ、今朝で全部荷が終わったよ。それでね、農協の集荷センターの所から頼まれたんだ。来からしいパッキングラインがくんだが、荷規格の検品と配の段取りがわかる責任者がどうしてもりないんだってさ』

姉が、からからと笑った。

『どうだい? 臭い仕事だけどさ。あんたのあの几帳面な目と腕を、貸してくれないかい?』

胸の奥の、番い所にあったたい氷が、音をてて溶けていくのをじた。

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私は空を見げ、震える息を吸い込んだ。

「……お姉ちゃん」

喉の奥から絞りした声は、にかき消されそうなほど震えていた。

『何だい、改まっちゃってさ』

話の向こうで、姉が照れくさそうに笑う。 フォークリフトがバックする甲い子音。 作業員たちの鳴り声のような活気ある挨拶。 の群馬の、と段ボールが混ざりったあの匂いが、受話器を通じて胸の奥底まで流れ込んでくるようだった。

「私、帰るよ。群馬に」

瞬のがあった。 姉は何も問い詰めなかった。 26の苦労も、あので私が受けてきた侮蔑も、すべて察しているかのように、ただ静かに息を吸い込んだ。

『うん。待ってるよ。……お父さんの仏壇も、ちゃんと掃除してあるからね』

通話を切ると、たい突が吹き抜けた。 首に巻いた物のマフラーをぎゅっと引き寄せる。

もう、埼玉に私の居所はどこにもなかった。 だが、その事実に、爪の先ほどの未練もなかった。

そののうちに造アパートを引き払った。 持ち込んだ荷物は、段ボール箱とさなスーツケースひとつ。 駅の産に鍵を返し、敷の精算類にサインをする。

窓の若い男性が「お世話になりました」とをげた。 その儀礼な挨拶ひとつで、私の埼玉での26は、綺麗さっぱり消えった。

夕方、予約していたレンタカーの軽トラックに荷物を積み込み、私は関越自へと舵を切った。

へ向かうにつれて、界を遮る層マンションや建て込んだ宅が消え、界がけていく。 夕暮れに染まる赤の鋭い稜線が、フロントガラスの向こうに青黒く浮かびがっていた。 空っが体を激しく揺らす。

ハンドルを握るの甲に、ぽたりと温かいものが落ちた。

涙だった。 本の座敷でも、役所の窓でもなかった涙が、群馬の並みを見た瞬、止めどなく溢れしてきた。

しいのではない。 悔しいのでもない。 ようやく、呼吸ができる所に帰ってきたのだという、痛いほどの堵だった。

実の平は、の郊、見渡す限りの畑の真んに建っていた。

築を超える古い造建築。 壁のトタンは潮ならぬ赤おろしに削られて錆び、縁側のガラス戸は建付けが悪くてし隙が空いている。

扉の脇には、き父が植えた渋柿のが、の空に向かって逞しく枝を伸ばしていた。

を止め、鍵をけてにを踏み入れる。 ツンとした気配のなかに、乾いた畳と古い材の、懐かしい匂い。

「お父さん、ただいま」

仏壇のに座り、埃ひとつない黒漆の台座にをわせた。 遺のの父は、焼けした顔にい皺を刻み、し照れくさそうに笑っていた。

『織、畑のはな、嘘をつかねえぞ』

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