"姉の身代わりで謝罪したら「最初からあなたをご指名です」" 第9話
誰かの付き添いが絶対に必な処置ではない。 ただ、病院の待で待つのが面倒だから、類の続きや会計の列を誰かに押しつけたいだけなのだ。
「……断るよ」
私のから、静かな声がた。
母のが、ぽかんといた。
「は……? あんた、今なんて……」
「曜は、かない。私には予定があるから」
廊の空気が、瞬にして凍りついた。
母の顔が、驚きから急速にりへと染まっていく。 の付け根まで真っ赤になり、額に青筋が浮かびがった。
「予定ですってぇ!? あんたの予定なんて、親の病院より事なわけないでしょうが! 曜に何の用があるっていうのよ!」
「言わなきゃいけない理由はないよ」
「あんた……まさか、あの野の男のところにくんじゃないでしょうね!?」
母の勘は、こういうだけ異常に鋭かった。 母は私の肩を掴もうとを伸ばしてきたが、私は半歩ろにがり、そのをたく避けた。
「調子に乗るんじゃないわよ! たかが回お茶んだだけの男に呼びされて、ホイホイ尻尾振ってかけていくつもり!? 恥をりなさい、恥を! あんたをべさせて、まわせてやった親を見捨てる気なの!?」
階から、ドタドタと音ががってきた。 物音を聞きつけた姉の綾が、腕を組みながら階段の踊りに現れた。
「何よ、うるさいわね。……あーあ、奈緒、あんたまたお母さんを困らせてんの? いい歳して反抗期ごっこ? みっともないからやめなよ。
広告
お父さんの病院くらい、女の代わりに付き添うのがあんたの役目でしょ」
女の代わりに。 悪びれもせず、当然の権利のように言い放つ姉。
以の私なら、このに挟み撃ちにされた点で、息が詰まって泣き崩れていただろう。 「ごめんなさい、私が悪かったから」と謝り、自分の予定をキャンセルして、曜の朝には従順に父の保険証を持って病院の受付にっていたはずだ。
けれど。
私は、母の目を、そして姉の目を、まっすぐに見据えた。 度も瞬きをせずに。
「お父さんは、で病院にけるよ。どうしても付き添いが必なら、お母さんが緒にってあげて。私はかない」
「奈緒ッ……!」
母がを振りげた。 平打ちがんでくるかもしれない。 そうって構えたが、私の瞳のたさに気圧されたのか、母のは空でピタリと止まり、わなわなと震えた。
「……もう、お母さんたちの都のいい具になるのはやめる」
私はそう言い残すと、母の目ので、パタンと部のドアを閉めた。
そして、迷うことなく鍵をかけた。
『けなさい! 奈緒! 親孝者! 誰のおかげできてこれたとってんのよ!』
ドアをドンドンと叩く激しい音と、母の切り声が響き渡る。 階からは、父の「おい、所迷惑だからやめろ!」というけない鳴り声が聞こえてきた。
激しい悸で、胸が痛い。
部の隅にしゃがみ込み、私は両でを塞いだ。 涙がぽろぽろとこぼれて、ジーンズの膝に黒い染みを作っていく。
しいのではない。 、この狭いので、自分の呼吸すらの顔を伺って決めていた自分に対する、悔しさとけなさだった。
ドアを叩く音は、分ほどで止んだ。 やがて、階で器の当たるガチャガチャとした乱暴な物音が響き、穏な静寂が実を支配した。
私はちがり、スマートフォンの画面をタップした。
乗換案内の予約画面。 宮発、野き幹線。そこから松本、そして穂へ。
私は、迷わずに購入確定のボタンを押した。
画面に表示された『予約が完しました』の文字を見つめながら、私はさく息を吐いた。
もう、引き返せない。 私は私のの切符を、まれて初めて、自分ので買ったのだ。
曜の朝、私は実がまだ寝静まっている午に部をた。
リビングを通ると、テーブルのには昨夜の夕の皿がそのまま放置されていた。 いつもなら私が夜のうちに洗い、拭いて器棚にしまっていたものだ。 シンクには油で汚れたフライパンが突っ込まれ、ゴミ箱からはゴミの匂いが漂っていた。
私が晩何もしなかっただけで、このはこうして能全に陥る。 それを「族の温もり」
と呼ぶことなど、到底できなかった。