"姉の身代わりで謝罪したら「最初からあなたをご指名です」" 第8話
『奈緒さんはや印刷のことに本当に詳しいんですね。私たちののラベルも、実は元の印刷さんと試錯誤しながら作っているのですが、なかなかうような質がなくて苦労しています。今度、ぜひご見を聞かせてください』
私の仕事を、のプロフェッショナルとして認めてくれる。 実の族からは「誰でもできる事務の雑用」と切り捨てられていた々の積みねを、松本さんは当たりのように尊してくれた。
週末の夜には、い話もするようになった。 彼の声はいつも落ち着いていて、折、曇野ので飼っている板犬の鳴き声がくから聞こえてきたりした。
「奈緒さん」
ある曜の夜、話で松本さんがし改まった声をした。
「はい」
「もしよろしければ……来週の曜、曇野に来てみませんか?」
臓が、トクンと音をてた。
「私の母も、ぜひ奈緒さんにお会いしたいと言っていまして。もちろん、の見学を兼ねた観のようなものです。決して構えたりしないでください。緑の季節は過ぎましたが、今の曇野は果物が実って、とてもいい季節ですから」
「曇野に……」
きたい、と即座にった。 彼が毎汗を流している所、あの褪せた巾着袋が切に置かれていたデスク、そして祖母が好きだった信州のを、この目で確かめてみたかった。
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「はい、ぜひ伺いたいです。の、調べてみますね」
受話器を置いた、私はすぐにスマートフォンの乗換案内アプリをいた。 宮から野幹線で松本へ、そこから糸線に乗り換えて穂駅まで。 往復の運賃と特急券の額を確認し、ネットで指定席の予約画面をく。
自分の貯から、自分ので、きたい所へくための切符を買う。 それだけのことが、私にとっては信じられないほど眩しい冒険のようにえた。
クレジットカードの決済ボタンを押そうとした、そのだった。
トントン、と部のドアが乱暴に叩かれた。 返事をするもなく、ドアノブがガチャガチャと回され、鍵がかかっていることに気づいた母の苛った声が響いた。
「奈緒! ちょっとけなさいよ、なんで部に鍵なんてかけてんのよ!」
胃の底が、きゅっと縮みがる。 私はスマートフォンを伏せ、ちがってドアの鍵をけた。
「……何?」
ドアの隙から顔を覗かせた母は、に政から届いた青い封筒を握りしめていた。
「来週の曜のことよ」
母は、私の部に入り込もうともせず、廊から顎をしゃくって封筒を突きしてきた。
「お父さんの胃カメラの精密検査の程が決まったの。曜の朝に、川越の総病院。あんた、朝から付き添っていきなさい」
のの予定表が、真っに弾けんだ。
来週の曜。 私が、曇野へく約束をしただ。
「……曜?」 私の声が掠れた。 「お父さんの検査って、先から決まってた定期健診の再検査でしょ? きな病気じゃないって言ってたじゃない」
「再検査だから事なのよ!」 母は目を吊りげた。 「病院の待ちはいのよ! 類の受け渡しだってお父さんじゃあやふやだし、終わったに薬局で薬ももらわなきゃいけないでしょうが!」
「お母さんが緒にけばいいじゃない。曜、お母さんは何も予定ないでしょ」
私が正論をにすると、母はまるで信じられない反逆者に遭ったかのように顔を歪めた。
「何言ってるのよ! 私はのから町内会の清掃があって腰が痛いのよ! 病院のを歩き回るなんて無理に決まってるでしょう! 綾だってそのは朝から表参のサロンでネイルの予約が入ってるし、夜は会社の役員との会なのよ! 綾のを煩わせるわけにいかないでしょ!」
まただ。 いつだって、そうだ。
姉のネイルサロンは「かせないな予定」で、母の気まぐれな腰痛は「絶対の免罪符」。 そして、私のだけは、いつでもゼロ円で買い叩いていい雑用係の。
胸の奥底から、たいマグマのようなものがせりがってくるのをじた。
卓のにあった父の検査通を、私はにたまたま見ていた。
問診と胃カメラのみ。 父は腰も丈夫で、自分でを運転して役所にもける。