"姉の身代わりで謝罪したら「最初からあなたをご指名です」" 第5話
画面にる文字。
『母』
私はち止まり、たいガラス画面を見つめた。 いつもなら、着信音を聞いただけで悸がして、コール以内になければと焦っていたはずのが、議なほど静かだった。
きく呼吸をして、通話ボタンをスライドする。
『ちょっと奈緒! あんた今どこにいんのよ!』
を塞ぎたくなるような、母の甲い鳴り声がスピーカーから漏れた。
『ちゃんとげてきたんでしょうね? 菓子折り渡して、相の男を納得させたんでしょうね? 帰りに駅のスーパーで牛乳と卵買ってきなさいよ、綾がプリンべたいって言ってるんだから!』
いつもの常。 私を都よく使い潰すための、変わらない実の空気。
私は、夕暮れの空を見げた。 昙野へと続くの空は、どこまでもく、澄み渡っている。
「……お母さん」
『何よ、さっさと言いなさいよ!』
私は、自分のでしっかりとアスファルトを踏みしめながら、静かに、けれどはっきりと告げた。
「謝ってきたよ。でもね、相の松本さん、言ってた」
『は? 何よ』
「最初から会いたかったのは、お姉ちゃんじゃなくて、私だったって」
話の向こうで、母の息を呑む音が、はっきりと聞こえた。
「……は?」
話の向こうから、を疑うような掠れた声が返ってきた。
数秒の沈黙。 いつもなら関銃のように言葉をまくしたてる母が、完全に言葉を失っている。
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私は川越駅の歩でち止まり、握りしめたスマートフォンの画面をじっと見つめていた。 のガラスに映る自分の姿は、いつもと変わらない。 くたびれたのカーディガンに、ペタンコのパンプス。 髪を無造作に束ねた、歳の冴えない会社員。
けれど、胸の奥で鐘を打つ臓だけが、今までとはまったく違うを帯びていた。
『あんた……何言ってるの? でもおかしくなったんじゃないの?』
ようやく絞りされた母の声は、震えていた。 戸惑いと、信じたくないという拒絶が混ざりった、甲い響き。
『松本さんが、あんたなんかに会いたがるわけないでしょうが! 適当なこと言ってんじゃないわよ! 相は野で会社やってる跡継ぎなのよ!? なんで綾じゃなくて、あんたなんかに……』
「松本さんご本が、そう言ってたの」
私は母の言葉を遮った。 ので、母のヒステリックな声を自分から遮ったことなんて、度もなかった。
「に、おばあちゃんとお母さんの実の方の芸にったでしょう。松本さん、そののことを覚えててくださったの。仲さんにも、最初から『川の次女の奈緒さん』って、私の名でお願いしてたって」
『……な、仲さんが……?』
母の息が、喉の奥でひっかかった。
『そんな……だって、届いた釣には……』
「お母さん、ちゃんと名読まなかったんでしょう」
図だったのだろう。 話の向こうで、ガサゴソと何かのを引っ掻き回すような荒っぽい物音が響いた。
『ちょっと……奈緒、あんた今すぐ帰ってきなさい! 牛乳なんて買ってこなくていいから、さっさと帰ってきなさいよ!』
元で、方に通話が切られた。 ツーツーという乾いた子音。
私はゆっくりとスマートフォンをからした。 夕暮れのが、汗ばんだ首筋をたく撫でていく。
元がしふらつく。 母にこんなの利き方をしたのは初めてだった。 臓が破裂しそうなくらい痛い。 けれど、悔は微もなかった。
私は駅のスーパーには寄らず、コンビニでたい緑茶を本だけ買い、実へ向かうバスに乗り込んだ。
玄関の引き戸をけた瞬、え切った空気が顔にぶつかってきた。
「おかえり」の声はない。 廊の奥、リビングのドアが乱暴にけ放たれていた。
靴を脱ぎ、揃えてがると、ダイニングテーブルを囲んで両親と姉が待ち構えていた。 卓の央には、あらかじめ広げられた見いの類。 のような封筒の横で、母が腕を組み、仁王ちで私を睨みつけていた。
「奈緒。あんた、さっきの話、どういうことなの」
母の目が血っている。 テーブルの向こうでは、姉の綾がそうに眉をひそめ、雑誌をめくるを止めていた。
父はといえば、相変わらずリビングの隅でテレビの音量をさくし、居悪そうに爪をいじっている。