"「妻のヒモになれ」と笑われた夜、専務が頭を下げた" 第15話
同に、私の通報をもみ消した総括課を含む関係者名に対しても、格と減の懲戒処分がされた。
そのの夕方。 私物の理のために埼玉統括本部を訪れていた瀬部と、私は廊の突き当たりで鉢わせた。
彼女は、茶いダンボール箱をつ、胸に抱えていた。 かつてあれほど入れのき届いていた髪は乱れ、ハイヒールの爪先は汚れていた。 私と線がぶつかった瞬、彼女のが止まった。
息を呑む音が、静かな廊に響く。
彼女の瞳の奥に、ギラリとした憎悪と、それ以にい屈辱のがった。 唇を噛み、震えるでダンボールを抱え直しながら、私を睨みつける。
「……満かしら」
吐き捨てるような、掠れた声だった。
「取締役の奥様を使って、私を組織から引きずりろして。したご分ね。現のちっぽけな講師が、勝った気になってるんじゃないわよ」
最まで、彼女は自分が見ていた世界から抜けせないでいた。 数字と、権力と、関係。 それだけでの価値を測り、それに敗れた理由を「相がもっとい権力を持っていたから」としか解釈できない。
私は、りも、軽蔑も湧かなかった。 ただ、胸の奥にい虚しさが広がるのをじていた。
「瀬部」
私は静かにをいた。
「私は、あなたに勝とうとしたことなど度もありません」
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「嘘をおっしゃい!」
「私はただ、教で学んでいる子どもたちのノートを守りたかっただけです」
瀬部の息が、喉で止まる。
「徒たちは、あなたの世のための数字じゃない。画面をタップするだけの記号じゃないんです。ひとりが悩み、傷つきながら、自分の力で未来を掴もうとしているのです。……それを数字としてしか見られなくなった点で、あなたは教育者として、自らを失墜させていたんですよ」
瀬部の顔から、急速に血の気が引いていった。 何かを言い返そうと唇を震わせたが、乾いた喉からはヒューという掠れた呼吸が漏れるだけだった。
彼女はダンボールを抱えたまま、逃げるように私の脇をすり抜けていった。 カツ、カツ、と揃いに響くヒールの音。 その背は、かつて会で全社員を見ろしていた尊な部の姿とは、あまりにもかけれてさく、れだった。
嵐がったあと、現に訪れたのは、奇妙な静けさだった。
瀬部の失脚は、社内に巨な衝撃を与えた。 そして案の定、職員の片隅では、ひそひそとした囁き声が交わされるようになった。
「佐久先、奥さんが本社の社取締役なんだって」 「だから部を発でばせたんだろ」 「やっぱり、ろ盾があるには敵わないよな」
好奇の目。 巻きにするような、微かな警戒とやっかみ。
、臭く積みげてきた私の指導や、徒たちと築いてきた信頼が、「取締役の妻の力」というフィルターを通して見られてしまう。 それは、私が最も恐れていたことだった。
そんな折、社から直接、本社へ呼びされた。 社の応接セット。 差しされた類には、こう記されていた。
『教育企画発本部・次待遇 講師研修統括リーダーへの就任請』
現の講師から、びの本部管理職への抜擢だった。 与も、現の準から幅に引きげられる条件が提示されていた。
「佐久講師」
社はを乗りし、真剣な差しで私を見つめた。
「君が提してくれた改善提案、役員全員で精読したよ。デジタルツールの利便性と、きノートの定着力を融させた指導法は、が社がこれからむべき真の教育モデルだ。君のような現の痛みがわかるに、全社の講師を束ね、教育改革の先にってほしいんだ」
破格の待遇だった。 私を認め、名誉を挽回させるための、会社なりの精杯の誠であることは痛いほど伝わってきた。 このポストを受け入れれば、もう誰からも「冴えない現講師」と見されることはなくなる。 美穂との収入の格差も、ほんのしだけ縮まるかもしれない。
だが。
私の脳裏に浮かんだのは、スーツを着て会議でパソコンを叩く自分の姿ではなかった。
夕暮れの教。 「先、できたよ!」と、インクで汚れた指先を突きして笑う徒たちの顔だった。