"「妻のヒモになれ」と笑われた夜、専務が頭を下げた" 第8話
「……証拠のメールも、シフト表も見ていただけたのですか? これはらかな――」
「瀬部はね、役員会直属の特命を帯びて改革をめている方なんです。、物言いが厳しくなるのは、結果を求めるリーダーなら当然の資質でしょう。それに、あなたの担当クラスのデジタル利用率がいのは、客観な事実じゃないですか」
課はたい目で私を値踏みし、類をシュレッダーの脇へと押しやった。
「社内の士気を乱すような真似は、慎んでいただきたいですね。次に同じような申してがあった、あなた自の協調性の欠如として、次期契約更の査定に響くことになりますよ」
の芯が、スーッとえていくのがわかった。
自浄作用など、最初からしていなかったのだ。 数字をげ、役員に気に入られているがすべて。 現の講師の尊厳や、徒たちの学びなど、この巨な組織の歯にとっては、磨り減ったら取り替えるだけの消耗品に過ぎない。
私はくをげ、その部をた。 の先から、体温が奪われていくようだった。
夜。 埼玉の自宅アパートのドアを、鍵をてないよう慎にけた。
静まり返ったリビング。 脱所の鏡に映った自分の顔は、頬がこけ、目のには黒々とした隈が張り付いていた。 を過ぎて、何をやっているのだろう。
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徒を守るために、組織から爪弾きにされ、社内の窓にさえ払いされる。 けなさと無力で、涙すらなかった。
(……美穂には、絶対にられるわけにはいかない)
私は洗面台の鏡の裏から、療内科で処方された眠導入剤のシートを取りし、錠をで喉の奥へ流し込んだ。
妻・美穂のが、をよぎる。
美穂は優秀だった。 監査法を経て独し、自らちげた経営コンサルティングファームで、いくつもの倒産寸の企業を再建させてきた。 その晰な脳と、誰に対しても分け隔てのない誠実な柄を、私はから尊敬していた。 数、私の勤める教育企業が経営危に陥った際、美穂が部アドバイザーとして招聘されたのが、の会いだった。
だが、社取締役に就任した美穂と私のには、分い壁があった。 それは、私が自らに課した、絶対に譲れない誓いだった。
『社内では、赤のとして振るうこと』
もし私が美穂のを利用すれば、それは瀬部のやっている権力の乱用と何ら変わりがない。 「取締役の夫だから優遇されている」というが度でも差せば、私が徒たちと積みげてきたは、すべて嘘になってしまう。 男のつまらないかもしれない。 だが、そのだけが、底辺からいがってきた私が、自分を自分として保つための最の錨だった。
「……浩さん?」
暗のから、微かな擦れの音とともに、妻の声がした。 見げると、寝のドアが細くき、部着を羽織った美穂がっていた。
「あ……起こしちゃったかな。ごめん、すぐ寝るよ」
私は慌てて薬のシートをポケットに隠し、力なく笑ってみせた。 だが、美穂の澄んだ瞳は、私のぎこちない笑顔を真っ直ぐに見つめていた。
美穂は無言のまま歩み寄り、私の元に線を落とした。 隠し損ねた薬のの包装が、灯のかりを反射していた。
「また、眠れなかったの?」
美穂の声は、静かだった。 問い詰めるような調子ではなく、ただ痛みを分けおうとするような、い響き。
「ううん、ちょっと受験で、教材のチェックがくてね。気が張ってるだけだよ。美穂こそ、もいんじゃないの? く寝なよ」
嘘をねるたびに、胸の奥が痛んだ。 美穂は私のにち、しばらくの、何も言わずに私の顔を見つめていた。 そして、え切った私のを、両でそっと包み込んだ。
「……浩さん。私の仕事のせいで、言えないことがあるの?」
臓が、ドクンとねた。
「え……?」
「私がこの会社の社役員だから、現で何かあっても、しているんじゃないの?」
その瞳には、すべてを見透かしているかのようなと、それ以に、夫に頼ってもらえないことへのいしみが揺れていた。
喉までかかった。 助けてくれと。 毎が怖くて、徒の顔を見るのすら苦しくて、司から虫けらのように扱われているのだと、すべてを吐きして泣きつきたかった。