"朝食が5分遅れて平手打ち、夫は「母さんを怒らせるな」" 第1話
乾いた破裂音が、静まり返ったダイニングに響いた。
の頬が、じんとい。
界の端で、お椀からこぼれ落ちた噌汁の湯気が、く揺れていた。
「うちの朝は、昔から6きっかりって決まってるのよ」
テーブルの向かいで、義母が酷な目で私を見ろしている。
「たった5分。されど5分よ。親の顔が見たいわね。の管理すらできないなんて、佐藤の嫁として失格だわ」
振りげられた義母のは、まだ宙に残っていた。
痛む頬を押さえることすら忘れ、私はち尽くした。
昨、婚姻届をしたばかりだった。
居となる賃貸マンションの入居は来週。それまでの1週だけという約束で、埼玉にある夫の実にを寄せていた。
義母の膝の調子がわしくないと聞いていたから、今朝は気を利かせて4半に起きた。 汁を昆布と鰹節から取り、鮭を焼き、卵焼きを巻き、鍋でご飯を炊いた。
慣れないの台所。調料の所を探しながら必に仕げ、配膳を終えたのが、65分。
たったそれだけで。 挨拶すら交わすの義母からんできたのは、言葉ではなく平打ちだった。
……は?
が、全く処理できない。
私は助けを求めるように、斜め向かいに座る夫を見た。
昨まで「由美を世界幸せにする」「何があっても俺が守る」と囁いていた夫。 3歳で、物流会社の営業をしている、穏やかで優しいはずの。
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夫は、ちがりもしなかった。
箸を持ったまま、チラリと私に線を投げ、すぐに元のスマートフォンへと戻した。 眉にわずかなシワを寄せ、吐き捨てるように呟く。
「由美、母さんをらせるなよ」
「……え?」
「うちのルールなんだからさ。最初からケチつけないで、素直に謝っとけって」
臓が、嫌な音をててえ切っていく。
「あなた……今、お義母さんが私を叩いたの見えてたよね?」
「げさにするなよ」
夫は画面をスクロールしながら、ため息をついた。
「別に怪したわけじゃないだろ。朝から騒ぎてて、ご所迷惑だ。みっともない」
隣では、定退職した義父が無言のまま湯呑みをすすり、聞の奥に顔を隠している。 誰も、この異常な暴力を止めようとしない。 止めないどころか、まるで「躾」として当然であるかのような空気が、卓を支配していた。
喉の奥が、からからに渇く。
私は昨、誰と結婚したのだろう。 この男にとって、妻とは体何なのだろう。
りでも、しみでもない。 ただ、得体のれない悪寒が背筋を駆けがった。
私は何も言わなかった。 泣き喚くことも、取り乱すこともなく、静かに息を吸い込んだ。
そして、腰に巻いていたエプロンの紐を解いた。
丁寧につ折りに畳み、キッチンのカウンターのに置く。
「……何よ、その態度は」
義母が眉を吊りげる。
「謝りもしないで、何をすねてるの? 若い女はこれだから扱いづらいわ」
無して、2階の客にがった。
昨運び込んだばかりの、まだ荷解きすらしていないスーツケース。 クローゼットに掛けた通勤用のスーツとコートを掴みし、乱暴に押し込む。 ジッパーを閉める音が、静まり返った部にく響いた。
荷物を引きずって階段をりると、玄関のに夫が仁王ちしていた。 初めて見る、苛ちに歪んだ顔だった。
「お、本気で言ってるのか? 荷物まとめてどこく気配だよ」
「ます」
「はあ!? 結婚した翌に実びすとか、世体が悪すぎるだろ! 母さんにげて、今の晩飯の準備しろよ!」
「私は、理由もなくを殴るとは同じ根のにいられません」
私の声は、自分でも驚くほどく、平坦だった。
「来週、居の鍵を受け取るまで、ビジネスホテルか友達のに泊まります。お互い、しをやしましょう」
靴を履き、ドアノブにをかけた瞬だった。
夫が突然、私の腕を乱暴に掴んだ。 指が肉にい込むほどのさだった。
「かせるわけないだろ!」
焦りとりが混ざりった、甲い声。
「今てかれたら困るんだよ!」
「……痛い。して」
「すかよ! 来週までなんて待てるわけないだろ! 俺、母さんに言ったんだよ! 由美が来たら、のこと全部やってくれるからって! この期、母さんの面倒はおが見るって、もう約束してあるんだよ!」
玄関の空気が、凍りついた。