"四十八歳、二十五年の家事を「無職」と呼ぶ夫へ" 第20話
「俺、バイト増やすよ。奨学も借りる続きした。だから……母さんのお、無理して俺の学費に回さなくていいから。自分のために使って」
「亮……」
「親父みたいには、なりたくないんだ」
息子はちがり、部の隅に置かれていた、通販で届いたまま放置されていたカラーボックスの段ボールに目を留めた。
「これ、組みてるんだろ? ドライバー貸して。俺がやるよ」
狭い部で、息子が背を丸めて具を組みてるトントンという音が響く。 頼もしくなった背を見つめながら、私は目がくなるのを覚えた。
族を壊したのではない。 歪んだ依関係を断ち切ったからこそ、私たちは初めて、対等なとして繋がり直すことができたのだ。
初のある曜の夜。
スマートフォンの画面が、暗のでぼんやりとった。 表示されたのは、登録を解除したはずの、見覚えのある桁の数字。
元夫からだった。
計の針は、午を回っている。 酒をして、自制が利かなくなったのだろう。
私は通話ボタンを押さず、ただ画面が点滅するのを見つめていた。 コール音が回以続いたあと、度切れた。 だが、すぐにまた鳴り始めた。
諦めないと悟り、私は静かにベッドから起きがり、通話ボタンをスワイプした。 無言のまま、受話器をに当てる。
『……もしもし? 子か?』
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話の向こうから聞こえてきたのは、ろれつの回らない、ひどく濁った声だった。
『おい……子、頼むから戻ってきてくれよ。俺、もう限界なんだよ……』
背から、テレビの砂嵐のような雑音と、空き缶が転がる乾いた音が聞こえる。
『飯が……どこにもないんだ。スーパーの惣菜も飽きた。ワイシャツのクリーニングしにくすらないんだよ。……おい、聞いてるのか? 俺は反省したって言ってるだろ! おのありがたみは痛いほど分かった! だから、もういいだろ!?』
りと、願と、自己憐憫が混ざりった醜い懇願。
このはまだ、分かっていないのだ。 「反省した」「ありがたみを分かった」と言えば、私が昔のように「仕方ないね」と戻ってくると、本気で信じている。 私というを買い戻したいのではなく、便利だった過の常を買い戻したいだけなのだ。
『子、頼むよ……おだって、あの狭いアパートで寂しいだろ? 老、ひとりでぬのが怖くないのかよ……!』
「雅さん」
私は静かに、けれど氷のように透き通った声で、その言葉を遮った。
話の向こうの呼吸が、ピタリと止まった。
「私、今、すごく幸せよ」
『……え?』
「朝起きて、自分のためだけにお茶を淹れて、自分の仕事にって、夜は静かに本を読んで眠る。誰の嫌も取らなくていい活が、こんなに穏やかだなんてらなかった」
『子……』
「お体に気をつけて。お元気で」
それ以、秒たりとも言葉を交わす気はなかった。 私は通話を切り、そのままその番号を着信拒否に設定した。
ツーツーという子音すら残らない、完全な切断。
枕元にスマートフォンを置き、ベッドに横たわると、部の窓からよい夜がカーテンを揺らした。 私の世界から、あののが、完全に消えった瞬だった。
季節は巡り、枯らしが吹き抜けるが、再びやってきた。
。 私の、歳の誕だった。
文化振興事業団での勤務を終え、タイムカードを押してにると、夕暮れの空がい茜からへと移り変わっていくところだった。
駅へ向かう途、ポケットのでスマートフォンが震えた。 画面を見ると、奈美からの着信だった。
「もしもし、奈美?」
『お母さん、仕事終わった? 今どこ?』
「今、駅に向かって歩いてるところよ」
『よかった! 私、もう尾駅に着いてるから。あ、亮もさっき流したよ』
話の向こうから、ガヤガヤとした駅の喧騒と、息子の「腹減ったー」という呑気な声が聞こえてきた。
『お母さん。今、何がべたい?』
娘の弾んだ声に、私のがふと止まった。
今、何がべたい?
胸の奥が、ぎゅっと締め付けられた。 の結婚活で、誰かにそう尋ねられたことが、度でもあっただろうか。
夕の献を決める基準は、いつも夫の好みだった。 夫が「肉がいい」と言えば肉を焼き、酒のつまみになるような濃い付けのものを用した。