"四十八歳、二十五年の家事を「無職」と呼ぶ夫へ" 第6話
私がサインもしていない、もしていない類を盾に、夫はもう、裏で産を呼びつけていたのだ。
私がどうきるかなど微も気にかけず、ただ自分の描いた「軽な独活」のスケジュールに沿って、このを、私の居所を、刻もくに換えて処分するために。
「奥様? どうかされましたか?」
怪訝そうに私の顔を覗き込む営業マンの声を、私はくのので聞いていた。
胃の奥から、ドロリとした黒いがせりがってくる。 それはしみではなかった。
——許さない。
私のを、私のを、こんなふうにゴミ屑みたいに片付けられてたまるものか。
私は名刺を持つ指に力を込め、営業マンに向かって、たく、はっきりと告げた。
「この話、私は切聞いておりません」
営業マンのさんは、私のえ切った声に、貼り付けたような笑顔をぴたりと固まらせた。
「え……聞いて、いらっしゃらない?」
「ええ。売却の相談も、査定の依頼も、私はいま初めてにしました。このにはまだ私と子供たちの活があります。今のところはお引き取りください」
「あ、いや、しかしご主様からは、本に観と敷の測量だけでも済ませてほしいとくを押されておりまして……」
「持ち主の承諾がない敷へのち入りは、法侵入になりますよね」
を交えず、ただ事実だけを告げると、さんは息を呑み、額にい汗を浮かべた。
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宅のど真んでトラブルに発展するのを恐れたのだろう。 産の板を背負った男は、それ以歩も踏み込めず、々とをげてへと戻っていった。
セダンのテールランプが夕暮れのをざかるのを、私は扉のにち尽くしたまま見送った。
のひらに残った、営業マンの名刺。 角が指先にい込んで、痛い。
——妻にも話は通してある。
夫の嘘が、胸の奥でドロリとした澱になって沈んでいく。
話しいのテーブルに着くポーズだけを取りながら、面ではとっくに私の退を断つ準備をめていたのだ。 私が泣き寝入りして、提示された端を受け取っててくと、完全にをくくっていた。
に入り、玄関の鍵を内側からカチャリと閉めた。 静まり返った廊に、靴を脱ぐ擦れの音だけが虚しく響く。
私はリビングのかりをつけず、暗がりのでく息を吸い込んだ。
戦うしかない。 夫の用した敷布ので、転がされるのはもう終わりだ。
午過ぎ。 玄関のドアが乱暴にく音がした。
「おい、子!」
靴もろくに揃えず、ドカドカと廊を歩いてくる音。 リビングのドアが勢いよくき、顔を真っ赤にした夫が仁王ちになった。
には、先ほどの産の名刺が握りしめられている。
「お、さんを追い返したらしいな! どういうつもりだ! 俺がせっかくを割いて、番条件のいい仲介業者を選んでやったのに!」
ネクタイを緩め、唾をばしながら鳴る夫の姿を、私はダイニングテーブルの席から静かに見げた。
テーブルのには、夕の用は切ない。 私のために淹れた、めかけたほうじ茶が杯あるだけだった。
「私の承諾もなしに、勝に査定を呼ぶのはやめてって言ったのよ」
「承諾だと? こののローンを毎払ってきたのは誰だとってんだ! 俺の料で建てただぞ! 処分する権利が俺にあって何がおかしい!」
「名義があなたでも、結婚したにふたりで築いた財産よ。私のなしに売却契約なんて結べないわ」
夫は呆れたようにで笑い、乱暴に子を引いて腰をろした。
「法律の聞きかじりか? みっともない真似はよせ。おが円でもをしたか? 毎のボーナス払いで胃を痛めたことがあるか? にいただけのが、権利ばかり主張するな」
いつものだ。 相を無だと見し、経済力という棍棒を振り回して、こちらのを塞ぐ。 この、夫が私を黙らせるために使い続けてきた常套句だった。
けれど、今の私には、その言葉がひどくっぺらに見えた。
「じゃあ、雅さん」
私は湯呑みにを添えたまま、夫の目をまっすぐに見据えた。
「あなたの言う通りにしましょう」