"四十八歳、二十五年の家事を「無職」と呼ぶ夫へ" 第4話
バタン、とい玄関ドアが閉まる音がした。
リビングに、たい沈黙が落ちてくる。
歳。 社会経験が途切れた、ただのパート主婦。
夫の言葉が、呪いのように部の空気にこびりついていた。 けれど、議なことに、私のは昨ほど凍りついてはいなかった。
侮辱された痛みの底から、さな、けれど決して消えないりの種が、パチパチと音をてて燃え始めていた。
その週の曜、女の奈美が、都内からに揺られて帰ってきた。
「お母さん、急に『話がある』なんてLINEしてくるから驚いたよ。どうしたの?」
奈美はリビングに入るなり、トレンチコートを脱いでソファーに放り投げた。 歳。社会目。 しびたメイクをして、都内の雑踏で揉まれながら、自分のでち始めている娘の姿が、やけに眩しかった。
私は、曜の夜に夫から渡されたA4の用を、そのまま奈美のに差しした。
奈美は怪訝そうに眉を寄せ、をめくった。 数秒、娘の顔からサーッと血の気が引いていくのが分かった。
「……は? 婚協議? ……お父さん、本気で言ってるのこれ?」
「本気よ。もうサインするだけの段階だとってるみたい」
「なんで!? 浮気!? 借でもあるの!?」
「ううん。ただ、子供もきくなったし、お互い自由にきようって」
私は、夫が言った言葉を、できるだけを交えずにそのまま伝えた。
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を売ること。残ったを折半すること。私がパートで暮らしをすればいいと言われたこと。
奈美は類をテーブルのに叩きつけた。
「ふざけないでよ! なにが『お互い自由に』よ! 自分が自由になりたいだけでしょ!?」
娘の激しいりの声に、私は胸の奥がしだけ救われるような気がした。 私のじていた理尽さは、決して狂気でも、被害妄でもなかったのだと。
けれど、奈美は鳴り散らしたあと、ふうっとい息を吐いてソファーにく沈み込んだ。
「……でもさ、お母さん」
「え?」
「私、なんとなく……こうなるが来るんじゃないかって、ずっとってた」
奈美の線は、テーブルのの帳に向けられていた。
「お父さんってさ、悪気がないんだよね。本当に、自分が悪いことをしてるなんてミリもってない。だって、うちののでは、お母さんのだけが『タダ』だったから」
「奈美……」
「私、覚えてるよ。学のとき、をして学から話がかかってくると、絶対に迎えに来るのはお母さんだった。お父さんに話しても『今、会議だから無理』って言で切られたって、お母さん困ってたよね。夜に私が吐いたとき、シーツを洗ってたのもお母さん。亮が反抗期で荒れたとき、学に謝りにってたのもお母さん」
奈美はし目を伏せ、爪先を見つめた。
「お父さんがで遅くまで働いて、お料を運んできてくれたことには謝してる。
でもね、お父さんは『俺が働いてるんだから、のことはおの仕事だ』って顔をしてた。それだけじゃない。私や亮も……『お母さんはいつでもにいて、頼めば何でもやってくれる』って、お母さんの犠牲を当たりのインフラみたいに使ってたんだよ」
娘のから紡ぎされる言葉が、私の胸にく、く突き刺さる。
「お父さんは、お母さんの分のり調子のを全部吸い取って、自分のキャリアを作ったの。それで子供が巣ったら『はい、解散』? ……そんなの、絶対に許せない」
「奈美、もういいのよ。あなたにそんない荷物を背負わせたくて話したんじゃないの」
私が慌てて取り繕おうとすると、奈美はまっすぐに私の目を見つめ返してきた。
その瞳のさは、かつて代の頃、がむしゃらに働いていた私自の瞳と、どこかなって見えた。
「お母さん。お父さんのこととか、世体とか、そういうの全部取っ払って答えて」
奈美は言った。
「お母さんは、これからどうしたいの? まだだよ。お父さんに言われた通り、いアパートで、細々とパートを続けて、さくなってきていくの?」
私は、両を膝のでぎゅっと握りしめた。 爪がのひらにい込んで、痛かった。
ずっと、胸の奥底に押し込めて、誰にも言えなかった言葉。 にすことすら、母親として、妻として贅沢だと戒めてきた望み。