みかん小説
本棚

"四十八歳、二十五年の家事を「無職」と呼ぶ夫へ" 第3話

子供がきくなったら。 夫の仕事が落ち着いたら。 義母の介護が終わったら。

「がれたら、自分のをやり直せる」 そうやって自分に言い聞かせ、目ののチャンスを、自分のキャリアを、その都度差ししてきた。

誰かに銃を突きつけられて奪われたわけじゃない。 「族のため」「今はするだから」と、自分自で納得して差ししてきたのだ。

そして今、すべてを差しし終えて空っぽになった私に向かって、夫は言ったのだ。 「自由になれるんだぞ。謝してほしいくらいだ」と。

悔しさで、涙が滴、帳のに落ちてインクを滲ませた。

違う。 私は、自由になったんじゃない。 使い倒されて、用済みになったから、放りされようとしているだけだ。

翌朝、カーテンをけると、くたいのがリビングに差し込んできた。

午。 ネクタイを締めた夫が、階段をトントンとりてきた。 いつものように、テーブルのに並べられたトーストと目玉焼き、温かいコーヒーに目を落とし、子を引く。

だが、テーブルの端に積みげられた冊の帳に気づくと、夫は骨に眉をひそめた。

「なんだそれ。朝から気が悪いな」

夫はコーヒーカップにを伸ばしながら、吐き捨てるように言った。

「昨の、読んだのか? 弁護士の友にテンプレートをもらって、条件をき込んだだけだから、おかしなところはないはずだ。

広告

財産分与も半分、満はないだろ」

私はエプロンをし、夫の向かいの席に静かに腰をろした。

「昨の夜、これを見返していたの」

番に置いた、〇の帳をトントンと指先で叩いた。

「お義母さんが倒れたときのこと、覚えてる? あなた、私に何て言った?」

夫はトーストをに運ぼうとしたを止め、苛ちを隠そうともせずに息を吐いた。

「母さんの介護のことか? ……子、そうやって昔のことを蒸し返して俺を責めるのはやめろよ。あのはあれがベストな選択だっただろ。俺が仕事を休んで介護できるわけがない。の稼ぎが倒れたら、誰が宅ローンを払うんだ?」

「責めてるんじゃないの」

私は静かに言った。 を荒てないよう、腹の底にたい鉛を沈めるようにして、言葉を選んだ。

「確認したいだけ。お義母さんが施設に入るまでの、週に病院に通って、デイサービスの送りしをして、の世話までしたのは誰だった?」

「……だから、それには謝してるって言ってるだろ」

「謝なんて求めてないわ。その、私がどれだけパートのシフトを減らして、の加入資格を失ったか、ってる?」

夫の顔が、わずかに引きつった。 だが、すぐにいつもの傲な表できされた。

「それを言いしたらキリがないだろ! おがにいてくれたから、子供たちもグレずに育った。

俺もして働けた。おだって、俺の稼ぎで今まで飯をってきたんじゃないか。専業主婦みたいなパート暮らしで、根のあるにめて、何が満なんだ?」

「満?」

喉の奥で、乾いた笑いが漏れそうになった。

「満なんてもんじゃないわ。私はね、雅さん。あなたがでキャリアを積みげて、役職当をもらって、退職を増やしていく、そのをずっとタダで支えさせられていただけだったのよ。そして子供が自した瞬に、『もう共通の話題がないから解散しよう』って……あんまり都が良すぎない?」

夫はガチャンと乱暴な音をててコーヒーカップをソーサーに戻した。 褐の液体が数滴、いテーブルクロスにび散る。

「じゃあ何だ、慰謝料でも請求する気か? 倫もしてない、暴力も振るってない俺から、どうやってを取る気だ? 法律をしは勉しろよ」

夫はちがり、ビジネスバッグを乱暴に掴んだ。 そして、玄関へ向かう際、振り返って私をたく見ろした。

「いいか、子。現実を見ろ。おはもう歳なんだよ。社会経験なんて以に途切れてる、ただのパート主婦だ。今さら正社員にでもなれると本気でってるのか? 俺かられて、ひとりで世の荒波を渡っていけるわけがないだろ。……現実な落としどころを考えろ。

これ以ゴネるなら、弁護士をてて械にめるだけだ」

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: