みかん小説
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"朝食を捨てた義母に「二度と台所には立ちません」" 第13話

綾子も来ていた。 腕まくりをして、客用の湯呑みを枚ずつ丁寧に拭きげている。

「お帰り、美里さん」

綾子が顔をげ、疲れた、けれどどこかすっきりとした笑みを浮かべた。

「修平のやつ、けないったらありゃしないわよ。のしの表きのき方すららなくて、さっきまで本でマナー本ち読みしてたんだから」

キッチンのカウンターの向こうでは、修平が慣れないつきで根の皮をピーラーで剥いていた。 指先を包丁で切ったのか、の親指に絆創膏が痛々しく巻かれている。

のに、らかな変化が起きていた。 男たちが、自分たちので、自分たちの義務としてき始めていた。

だが――。

私は、リビングの最も暗い片隅に線を向けた。

義母が、座っていた。

毛玉だらけのカーディガンを羽織り、正座をしたまま、ピクリともかずにいた。 その目は、テーブルのの配席図や、修平が器用に根を刻む背に、じっと注がれていた。

堵の表ではなかった。 謝のでもなかった。

そこにあったのは――剥きしの「恐怖」だった。

まるで、守り続けてきた自分のを、で見らぬ軍勢に占領された落の将のような目。 自分の居所が、自分の役割が、目に見えるスピードで奪われていくことに対する、絶望な拒絶反応。

義母の膝ので握りしめられた拳が、くなるほどく震えていた。

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「……何よ、これ」

義母の唇から、擦れた声が漏れた。

綾子がを止める。 修平も包丁を置き、恐る恐る母親を振り返った。

「母さん……?」

「何よ、これって聞いてるのよ!」

義母が、突如としてちがった。 痛むはずの腰を顧みず、弾かれたようにダイニングテーブルへ詰め寄る。

テーブルのの配席図を鷲掴みにし、クシャクシャに握り潰した。

「仕し!? 百貨のオードブル!? あんたたち、本気でそんなものを親戚にす気なの!? 恥をかかせる気!? 『田の嫁は、夫の還暦に自分で料理も作れない怠け者だ』って、本の叔母さんたちにろ指を指されたらどうするのよ!」

「母さん、落ち着けよ!」

修平が慌てて駆け寄り、母親の肩を掴もうとした。

「俺たちが全部やるから! 母さんは腰も悪いんだし、は座って……」

「触らないで!」

義母は狂気じみた力で、息子の腕を振り払った。

その反で、テーブルのの湯呑みがに落ち、ガシャンと甲い音をてて々に割れた。 破片が畳のにび散る。

静寂が、部を支配した。

義母は肩で激しい息をしながら、に散らばった陶器の破片を見つめていた。 そして、ゆっくりと顔をげた。

その瞳から、粒の涙がボロボロと溢れしていた。 りの涙ではなかった。 自らの価値を根底から否定されたの、魂の絶叫だった。

「……私の所を、取らないでよ」

義母の声が、子供のように裏返った。

「よ……! 、私はこの台所で、毎毎、あんたたちのためにを使ってきたのよ! どんなにがあっても、どんなにが割れそうに痛くても、度だって朝飯を欠かしたことはなかったわ! それなのに……何なのよ、これ!」

義母は修平の胸を、拳で何度も叩いた。 力のない、痛々しい打撃。

「仕しで済むなら……あんたたちが全部自分でやれるなら……! 料理もしなくなった私に、こののどこに居所があるのよ! 私は何のために、も耐えてきたのよ! ただの飯炊きババアじゃない! 飯を作らなくなったら、私なんて、このにとって何の価値もないただのゴミじゃないのよ……!!」

義母はそのに崩れ落ちた。 散らばった湯呑みの破片も気にせず、畳に両をつき、嗚咽を漏らして泣き伏した。

修平はち尽くしていた。 母親の叫びのあまりの々しさに、言葉を完全に失っていた。 綾子も、唇を噛みしめたまま、目を赤くして顔を背けた。

飯を作らなくなったら、何の価値もない。

それが、このがかけて作りげた怪物の、しい真実だった。 父制の霊のような夫に尽くし、息子を育てげ、自分の名も、伊勢丹の包装を巻いていた頃の誇りもすべて捨てり、「庭料理」という名の檻に自らを閉じ込め続けた女の成れの果て。

私は、割れた湯呑みの破片を避けながら、ゆっくりと義母のへ歩み寄った。

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