"朝食を捨てた義母に「二度と台所には立ちません」" 第12話
「作れないなら、を使いなさい!」
私は夫の胸ぐらを掴まんばかりの距で言い放った。
「仕しの配。親戚への連絡。当の会設営。全部、あなたがやりなさい。綾子さんにもをげて、伝ってもらいなさい。歳の男が、自分の父親の還暦祝いひとつ、母親の体を削らずに取り仕切れないなんて恥をりなさい」
修平の顔が、屈辱と激しい揺で赤黒く染まっていった。
「……もし」
私は徹に、最の撃を落とした。
「もし今週末、お義母さんにあの厨をで任せて、あのが本当に倒れたら。……私はそののうちに、このをていくわ。婚届を置いてね」
修平の肩が、ビクッとねがった。
冗談を言っている目ではないことを、夫は瞬に悟ったようだった。 喉仏を激しくさせ、テーブルのの丸まったレシートを、震えるでく握りしめた。
そのの昼休み、私のスマートフォンが激しく震えた。
画面には『修平』の文字。 オフィスの湯に入り、通話ボタンを押す。
「……美里か?」
受話器の向こうの夫の声は、これまでに聞いたことがないほど擦り切れていた。 背から、ガヤガヤとしたスーパーの喧騒が聞こえる。
「どうしたの」
「あのさ……買いしに来たんだけど、全然分からないんだよ」
修平の声は、半泣きだった。
「仕しの割烹には話した。曜の昼に、分の祝い膳を届けてもらう予約はなんとかねじ込んだよ。
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でも、親戚の寄りたちがむ茶とか、酒とか、菜の鉢くらいはで用しなきゃいけないだろ? スーパーに来たんだけどさ……醤油ひとつ取っても、濃とで何が違うんだよ? 汁パックだって種類がすぎて、母さんがいつも使ってるやつがどれか全然分かんないんだよ!」
蛇から落ちる滴を見つめながら、私はややかに息を吐いた。
「それを、毎で考えて買いしをしてきたのが、お義母さんよ」
「……っ」
「スーパーの棚ので途方に暮れるくらいのことで音をげないで。お酒は、お義父さんの兄弟の好みを綾子さんに確認しなさい。お茶は、番等な静岡の茶葉を選べば違いありません。それくらい、自分で判断して」
「待てよ、美里! 綾子に話したら『あんたが全部仕切るなら伝ってあげる』って散々嫌言われて……親戚の叔父さんからは『千代さんの料理がえないならくがない』とか文句言われて……俺、もうが割れそうなんだよ!」
「それが『主婦の仕事』の正体よ」
私は淡々と告げた。
「料理を作るだけが事じゃないの。族の体調を管理して、親戚の嫌を取り、文句を言われないように根回しをして、予算のでやりくりする。あなたたちが『タダで湧いてくる空気』だとい込んでいたもののさを、しは骨に染みなさい」
話の向こうで、歳の夫が荒い息を吐いている。
かつて、婚初の朝に私の作った噌汁が流しに捨てられた、「母さんはずっとこうだから」とスマホをいじりながら放置した男。 その男が今、たった半の雑務に追われ、スーパーの調料売りで、打ちのめされている。
「……美里」
い沈黙の、修平が掠れた声で言った。
「母さん、ずっと……こんなこと、でやってたのか……?」
「そうよ」
「俺、らなかった。親父が定して、母さんも暇になったんだとってた。にいるんだから、飯作るくらい当たりだって……ずっと、そうってた……」
受話器越しに、を啜る音が聞こえた。
同はしなかった。 けれど、夫の胸のに穿たれた穴のたさは、痛いほど伝わってきた。
「気づいたなら、最までやり切りなさい。母親を殺したくなければね」
私はそう言い捨てて、通話を切った。
午のオフィスに戻る取りは、ほんのしだけ、朝よりも軽くなっていた。
還暦祝いの、曜の夕方。
私が仕事を終えて所沢のに戻ると、玄関には見慣れない景が広がっていた。
廊の隅に然と積まれた、名百貨のロゴが入った袋。 座敷用のしい座布団が枚、ビニール袋に入ったまま並べられている。 リビングのテーブルのには、修平がいたとわれる、親戚の配席図とタイムスケジュールが記されたが置かれていた。