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"朝食を捨てた義母に「二度と台所には立ちません」" 第8話

綾子は義母の元の買いしリストを指差した。

「分の料理を、この狭い台所で全部作りするなんて正気の汰じゃないわよ。お母さん、自分の齢分かってるの? 腰痛いんでしょ? 引きずってるじゃない。なんでそこまでして、全部自分でやろうとするのよ!」

「仕しなんて頼めるわけないでしょう!」

義母の声が、ヒステリックに裏返った。

「本の叔父さんたちも来るのよ!? 『田の嫁は、夫の還暦祝いにパックの仕しをしてを抜いた』なんて言われたら、私が今までやってきたことが全部の泡になるじゃない! あんたは私の世体をまみれにする気!?」

「世体、世体って……!」

綾子の顔が、悔しさとりで真っ赤に歪んだ。

「結局それじゃない! お父さんのためでも何でもない、お母さんが親戚に『よくできたお嫁さんですね』『尽くす奥さんですね』って褒められたいだけでしょ!? そのために、なんで私が仕事も庭も犠牲にして駆りされなきゃいけないのよ!」

「綾子、あんた……母親に向かって何てを……!」

義母がを振りげた。 だが、その腕は空で刻みに震え、振りろされることはなかった。 痛む腰を支えきれず、義母の膝がガクンと折れたからだ。

「あっ……!」

義母はそのにへたり込んだ。 畳にをつき、荒い呼吸を繰り返す。 顔は青を通り越して、気になっていた。

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だが、綾子は駆け寄ろうともしなかった。 え切った目で、に崩れ落ちた母親を見ろしていた。

「……もううんざりなのよ」

綾子の声が、く震えていた。

「子供の頃からずっとそう。お盆もお正も、お母さんはで台所に籠もって、キーキー鳴り散らして、伝わない私を『気の利かない娘だ』って罵倒して。そうやって自分で自分を追い詰めて、被害者面して……! お父さんも修平も、お母さんが鳴るのが怖いからって、全部見て見ぬふりして私に押し付けて!」

「おい、綾子、言い過ぎだろ」

修平がたまらずを挟んだ。 だが、その声には何のみもなかった。ただの保だった。

「おだって族だろ。母さんが変なくらい、しは協力しろよ」

「あんたがやりなさいよ!」

綾子は修平に向き直り、猛然と噛みついた。

「あんた、実に寄して、お母さんに朝から晩まで飯作らせて、靴ひとつ自分でせないくせに何偉そうなこと言ってんの!? 美里さんだってそうよ! の嫁だからって、お母さんの介護員として都よく使えるとって同居決めたんでしょ!? 全部透けて見えてんのよ!」

リビングの空気が、完全に凍りついた。

修平の顔が、屈辱で引きつった。 義父は固く目を閉じ、を消すように縮こまっている。

にをついたままの義母は、ギリ、と歯をいしばり、の畳を爪で引っ掻いていた。

「……ていきなさい」

義母が絞りすような声をした。

「伝わないなら、もう度とこのの敷居を跨ぐんじゃないわよ。あんたなんか、産むんじゃなかった……!」

「言われなくても帰るわよ!」

綾子はバッグを引ったくるように掴むと、玄関へと踵を返した。 廊をで歩いていく背を、私はわず追いかけた。

「綾子さん!」

玄関で靴を履きかけていた綾子が、私を振り返った。 その目には、粒の涙が溜まっていた。

「……美里さん」

綾子はを啜りげ、乱暴に涙を拭った。

「美里さん、悪いことは言わないから、く修平とでアパート借りてていきなよ。あのはね、底なし沼なの。あの母親は、自分がボロボロになるまでに尽くして、その痛みを武器にして周囲を支配することしからないのよ」

「綾子さん……」

「伝っちゃダメ。同してもダメ。歩でも譲ったら、美里さんの、あのに全部吸い取られるから」

綾子はそう言い捨てると、傘も差さずに砂りののへとびしていった。 鉄の扉が、ガシャンと激しい音をてて閉まった。

たいの匂いが、玄関に吹き込んできた。 私はそのにち尽くし、脚のに消えていく義妹の背を見送るしかなかった。

底なし沼。 痛みを武器にして周囲を支配する。

その言葉が、鋭い破片となって胸の奥に突き刺さっていた。

リビングに戻ると、獄のような沈黙が支配していた。

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