"朝食を捨てた義母に「二度と台所には立ちません」" 第7話
「……お義母さん、これ」
私がわず指差したのは、缶の底に敷かれていた包装だった。
い緑のに、特徴な抽象模様。 昔の伊勢丹の包装だった。 角が几帳面に折られ、シワひとつなく伸ばされている。
義母のきが、ぴたりと止まった。
「……何よ」
「その包み。綺麗に折ってあったので」
義母は忌々しそうに息を吐き捨てようとした。 けれど、自分の指先が触れている包装を見つめたまま、数秒、沈黙した。
「……昔よ。結婚する」
掠れた声だった。
「私、浦の伊勢丹で贈答品の担当をしてたのよ。お元とお歳暮の期なんて、、何百個も箱を包んだわ。私の包みはね、角が絶対に緩まないって、売り主任にも褒められたの」
その瞬、義母の横顔から、あの刺々しい険しさが消えていた。 ただの、仕事に誇りを持っていたの若い女性の顔が、皺の奥からふっと浮かびがった。
「熨斗の文字も、で全部きでかされたわ。あの頃は……がこんなに荒れてなかった。指も細くてね、お客さんに『綺麗に包んでくれてありがとう』って、何度もをげられたものよ」
義母の線が、い過を彷徨っていた。 その声には、自分でも気づいていないような、い愁が滲んでいた。
「お義母さん、そのお仕事……」
私が言葉を続けようとした瞬だった。
「おい、千代! 聞がねえぞ! 夕刊はどうしたんだ!」
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リビングから、義父の太く鈍い鳴り声がんできた。
魔法が解けるように、義母の表が変した。 温かみのあった瞳が急速にえ込み、いつもの青い、張った仮面が張り付く。
「今持っていきますから!」
甲い声で叫び返しながら、義母はクッキー缶の蓋を乱暴に閉めた。 ガシャン、と障りな属音が響く。
そして、私を射抜くように睨みつけた。
「……何を聞きそうとしてるのからないけれど、あんたに同される筋いはないわ。昔の話よ。もの、くだらない話。私はね、田に嫁いで、このを守ってきたの。お父さんを支えて、修平をに育てげたのよ。伊勢丹の包装なんて、何の役にもたないわ」
義母は引を鷲掴みにし、痛む腰を庇いながら、りでリビングへと消えていった。
残された台所で、私は錆びたクッキー缶を見つめていた。 何の役にもたない、とあのは言った。 けれど、捨てられずにも元に残していたのだ。 自分が「誰かの妻」や「誰かの母」になる、自分の名と技術だけで誰かに謝されていた、たったつの証拠を。
胸の奥に、苦いをみ込んだようなみが残った。
曜。還暦祝いまで、あと。
朝からたいがっていた。 所沢の古い造は、芯からえ切っている。
午過ぎ、玄関のチャイムが激しく連打された。
ドタドタと乱暴な音をてて廊を歩いてきたのは、夫の妹、綾子だった。 歳。 都内のマンションで夫と暮らしをしている。 濡れた傘を玄関先に放りし、嫌を全から発散させながらリビングの引き戸をけた。
「お母さん、急に呼びすのやめてよ。今、夫の実の方の法の準備もあったのに」
綾子はコートも脱がずに、積みにされた皿のにち塞がった。
台所から、義母がエプロン姿で慌てててくる。 には、材の買いしリストが握られていた。
「綾子、遅いわよ! あんたも伝いなさい。曜の夜からこっちに泊まり込んで、曜は朝から仕込みよ。親戚分のお膳を並べるんだから、座布団の干しから何から、やることがほどあるの!」
義母は当たりのように命じた。 その調には、ミリの疑いもなかった。 実の母親がきな事を仕切る、娘がとなって無償で働くのは当然だという、固ない込み。
綾子の眉が、これ以ないほどそうにねがった。
「……は? 泊まり込み? 何言ってるの? 私、当の昼過ぎにしか来られないって、先週LINEで言ったよね?」
「何を言ってるの、実の父親の還暦祝いなのよ!? あんたが伝わなくて誰が伝うのよ!」
「誰がって……仕しを取りなよ!」
綾子の鳴り声が、茶のに響き渡った。
テレビを見ていた義父が、ビクリと首をすくめる。 階から階段をりてきた修平も、妹のただならぬ気迫にを止めた。