"朝食を捨てた義母に「二度と台所には立ちません」" 第6話
わず声が漏れた。 術の夫の世話と、々の事だけで、すでに体は限界を迎えているはずだ。 毎晩夜に徘徊し、や飯を齧らなければ精神を保てないが、分ののコースを作る? 狂気の汰だった。
義母は私の驚きを、自分への称賛か屈だと受け取ったらしい。 唇の端を吊りげ、歪んだ勝ち誇りの笑みを浮かべた。
「そうよ。昔から、田のの祝い事は全部私が切り盛りしてきたの。今回もそうよ。あんたのなんて、切借りないわ」
義母は私の腕を乱暴に突き放した。
「誰のも借りずに、完璧にやり遂げてみせるわ。……このに、あんたの居所なんて最初からないってことを、親戚全員のでいらせてあげる」
義母はそう言い捨てると、パタパタとい音をてて台所の奥へと消えていった。
残された勝で、私は黄いゴミ袋のみをじていた。
夜のコンビニのレシート。 え切った梅おにぎり。 そして、分の還暦祝いの宴席。
張り詰めた糸の限界の音が、すぐそこまで迫っている。
私はエプロンのない腰のあたりを無識に撫でながら、たいののへとを踏みした。
会社へ向かうの、吊革を握る指先がずっとたかった。
網棚のガラスに映る自分の顔は、驚くほど無表だった。
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代。度目の結婚。 分かっていたはずだった。 どれほど「理解ある夫」を演じていた男でも、度まれ育った実の敷居を跨げば、母親の庇護にある「無邪気な息子」へと瞬に巻き戻る。
けれど、あのゴミ箱の底に沈んだ卵焼きの触と、夜のレシートのさが、どうしてもかられなかった。
仕事を終え、所沢のに戻ったのは夜のを過ぎていた。
玄関の引き戸をけると、烈な臭いが腔を突いた。 すえた油の臭いと、湿布薬のツンとしたメントール臭。 それらがの温かい空気と混ざりい、息をするだけで胸の奥がくなる。
廊を抜けてリビングへ入ると、異様な景が広がっていた。
の畳のに、聞が何枚も敷き詰められている。 そのには、どこから引っ張りしてきたのか、埃をかぶった朱塗りの箱や、普段は使われない皿が所狭しと並べられていた。
「おい、千代。今の祝い酒はどこに発注したんだ」
座子にふんぞり返った義父が、テレビから目をさずに声をげる。
「所沢のいつもの酒ですよ。で話で確認しますから、お父さんは座っていてください」
台所から返ってきた義母の声は、しゃがれてずっていた。
義母は流し台ので、背を丸めていた。 エプロンの、カーディガンの腰のあたりが自然に盛りがっている。
見れば、分いコルセットを巻き、そのから何枚もの湿布をね貼りしているのが、襟首の隙から覗いていた。
調理台のには、学ノートが冊、きっぱなしになっていた。 きの細かい文字が、びっしりとマス目を埋めている。
『還暦祝い献 、鯛の塩焼き(分) 、筑煮(鍋つ) 、茶碗蒸し(杏、椎茸、鶏ささみ) 、赤飯() 、刺盛りわせ(築便にて配) 、蛤の潮汁……』
息を呑んだ。
これを、すべてで作る気なのか。 分の祝い膳。 料亭でも何もの板が分けして仕込むような品数を、腰を痛めて歩すら覚束ない歳の女が、たったで。
「……お義母さん」
私が声をかけると、義母の肩がピクリとねた。
振り返ったその顔を見て、背筋が寒くなった。 目のの隈は黒ずみ、頬はこけ、唇は渇いてひび割れている。 それでも、私を認めた瞬、瞳にギラリとした濁ったが灯った。
「帰ってきたの。見ての通り、忙しいのよ。伝えないなら、そこに突っってないで階へがってちょうだい」
義母はノートをバチンと閉じた。 その元に、古い缶が置かれていた。 錆の浮いた角いクッキー缶。蓋をけると、には定規や使い古されたハサミ、そして何ものリボンの端切れが綺麗に巻かれて収められていた。
義母は震える指先で、祝儀袋に掛ける引をえようとしていた。
だが、腫れがった指先がうようにかないらしく、の紐が何度も滑り落ちる。