"朝食を捨てた義母に「二度と台所には立ちません」" 第4話
それが、義母の「の誇り」の正体だったのか。
「お義母さん」
わず声がた。
義母はしゃもじを咥えかけたまま、弾かれたようにこちらを振り返った。 その顔には、見られたくない恥部を暴かれたような、剥きしの屈辱が張り付いていた。
「何よ。の顔をジロジロ見て」
「……座って召しがったらどうですか。お茶を淹れ直します」
「余計なお世話よ!」
義母はしゃもじを炊飯器に叩きつけた。 ガチャン、といプラスチックの音が響く。
「あんたに施しを受ける覚えはないわ。座ってダラダラ飯ってる暇があったら、の買いしのリストを作らなきゃいけないの。お父さんの薬の管理も、あんたのを借りなくても私がでやれるわよ!」
息を荒らげ、義母は私を睨みつけた。 その瞳の奥には、血った疲労のがべっとりとこびりついている。
「あんたはいいわよねぇ。で働いて、お料もらって、事は言われたことだけやってれば『よくできたお嫁さん』って言われるんだから。私はね、、も休んだことなんてないのよ! このを支えてるのは私なの! あんたなんかに、私の所を奪われてたまるもんですか!」
叫び声が、狭いリビングに霊した。 正志は居悪そうにを塞ぎ、テレビの音量をつげた。
私は、何も言い返せなかった。 りではなく、い、底れない徒労が元からいがってきた。
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所を奪う? 誰が、こんな沼のような所を奪いたがるというのだろう。
義母は荒い息を吐きながら、の蛇を力任せに捻った。 激しい流がシンクを叩く音が、私たちのの会話を完全に打ち消した。
そのの夜、私は喉の渇きで目を覚ました。
計の針は午過ぎを指している。 隣のベッドでは、修平がを半きにしていいびきをかいていた。 夕方遅くに帰宅し、義母が温め直したぷら蕎麦を平らげ、呂に入ってそのまま倒れ込むように眠った男。 妻と母親のに流れる毒のような空気に、何つ気づこうともしない。
私はベッドを抜けし、のカーディガンを羽織って部をた。
階の廊は底えしていた。 音をてないように階段を段ずつりる。
階にりった瞬、違を覚えた。
真っ暗なはずの廊の先。 台所の引き戸のガラス越しに、ぼんやりとしたの灯りが漏れていた。
棒ではない。 カチリ、カチリと、換気扇の回る規則正しい微かな属音が聞こえていた。
私はスリッパの音を忍ばせ、台所へづいた。 引き戸が、センチほどいている。
その隙から、を覗き込んだ。
換気扇の元灯だけが点いていた。 暗いダイニングテーブルの端に、があった。
義母だった。
昼の紺のカーディガンを脱ぎ、毛玉だらけの古いフリースを着込んでいる。
腰をひどく曲げ、丸めた背は、昼よりも回りも回りもさく見えた。
義母のに置かれていたのは、膳の箸でも、陶器の皿でもなかった。
クシャクシャになった、コンビニの透なおにぎりの包装フィルム。
義母は両で、え切った角形のおにぎりを握りしめていた。 苔の巻かれた、コンビニの梅おにぎり。
それを、歯でさくかじり取っている。 。 また。
咀嚼する音すらてないように、喉を詰まらせそうになりながら、ゆっくりとみ込んでいる。 その表には、昼の傲さも、攻撃な険しさもなかった。 ただ、飢えた獣が、暗ので誰にも見つからないように配のパンを齧っているような、異様な痛ましさだけがあった。
……なぜ?
ので、疑問符が渦を巻いた。
夕飯の残りなら、蔵庫にいくらでもあったはずだ。 炒め物も、漬物も、タッパーに入っていた。 何より、このは「がの伝統の」「しっかりした料理」をあれほど誇らしげに語っていたはずだ。
なぜ、夜に、きりでコンビニのおにぎりをべているのか。
の板が、私の体でミシリと軋んだ。
その瞬、義母の肩がねがった。
「っ!」
義母は弾かれたように顔をげ、元のおにぎりを、テーブルのに広げられていた古い読売聞のへ、乱暴に押し込んだ。
まるで、見られてはいけない毒物でも隠すような、慌てふためいたつきだった。