"朝食を捨てた義母に「二度と台所には立ちません」" 第1話
「うちの男たちに、そんな臭い飯はわせられないのよ」
元で叩きつけられた乾いた声と同に、元から、ぐしゃり、と鈍い音が響いた。
線を落とす。
青いポリ袋を敷いたゴミ箱の底。 そこへ、黄に焼いたばかりの汁巻き卵が転がり落ちていた。
湯気がかすかにちっている。 角をきっちり揃え、かつおと昆布の番汁を含ませて、で丁寧に巻きげた卵焼き。 それが、崩れた茶殻と昨夜のゴミのぬめりのに、無残にめり込んでいく。
息が、喉の奥で止まった。
「お義母さん、何を……」
声がかすかに震えた。 りよりも先に、目のの景が脳の処理速度を追い越してしまう。
義母の田千代は、眉ひとつかさなかった。 歳。 柄だが肉付きのいい体を、仕てのいい紺のカーディガンに包んでいる。 そのには、まだ湯気をてている鉢が握られていた。
私が夜から茹でし、汁をじっくり含ませた根とがんもどきの煮物。
「聞こえなかったかしら?」
義母は平然としたつきで、鉢をゴミ箱の真で傾けた。
ボトボト、と鈍い音をてて煮汁がねる。 面取りをした根が、ポリ袋の端に引っかかり、汁気を吸ったティッシュのに落ちた。
「こんなっぺらい病院みたいなもの、うちの卓にさないでちょうだい。
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見しただけで吐き気がしたわ。修平も、お父さんもね、もっとしっかりした濃いで育ってるの。過ぎて戻ってきたんだから、それくらいの調べはできてるとってたんだけど」
吐き捨てるような言葉の最に、フン、と先で嗤う音が混じる。
ダイニングテーブルの奥では、夫の修平が子に座ったまま、スマートフォンをスクロールしていた。 歳。 私より歳の、度目のの伴侶として選んだはずの男。
修平は画面から目をそうともしなかった。 ただ、気まずそうに片眉をげ、面倒くさそうに息を吐きす。
「……美里、母さんに答えするなよ。うちの飯の付けはずっと母さんが決めてきたんだからさ。なんだし、そこは美里がうまくわせてやってくれよ」
喉の奥が、氷をみ込んだようにたくなった。
結婚、私の作った豚の角煮を「で番うまい」と言って笑っていた顔は、そこにはなかった。 実という結界にを踏み入れた途端、歳の男は、母親の嫌を伺うだけの無力な息子どもへと退していた。
義父の正志が胆管の術を受け、退院の経過観察が必だという理由で、私たちは婚のヶだけ所沢のこのに同居することを決めた。 それが、今朝から始まるはずだった。
私は午に起きた。
慣れないの台所で、刃包丁の刃の入り具を確かめ、鍋の底を磨き、分の朝をで揃えた。 受け入れられたかった。 歳もで、再婚である私を迎え入れてくれた族に、しでも誠を見せたかった。
その結果が、ゴミ箱の底のゴミだった。
義母は最に、豆腐とつ葉を浮かべた噌汁の椀をに取った。 流し台の排へ、ためらいもなく汁をぶちまける。 ガタガタと音をてて椀がステンレスに転がった。
「私が以きてきて、あんたみたいな女に付けを指図される筋いはないの。修平を産んで育てたのは私。このの主婦は私よ。勘違いしないで」
爪の先が、のひらにい込んでいた。 痛みが、かろうじて私の理性をつなぎ止めていた。
鳴り返すことも、泣き叫ぶこともできた。 けれど、そんなことをすれば「これだからの戻りはヒステリックで困る」と片付けられるだけだ。 このは、私のを消費して、自分たちの正しさを確認したいだけなのだ。
私はく息を吸い込んだ。 え切った空気が、肺の底を刃物のように切り裂く。
両を腰のろへ回した。 今朝、結んだばかりのエプロンの紐に指をかける。 布が擦れる微かな音だけが、張り詰めた台所に響いた。
紐を解き、肩からす。 膝ので端を揃え、角く、丁寧に折り畳んだ。
「……美里? 何やってんだよ」
修平がようやく顔をげ、審そうに眉をひそめた。
私は折り畳んだ麻のエプロンを、磨きげられた調理台の端に、音もなく置いた。